エルゴード性とは?(1)

エルゴード性とは

  • 時間平均=集合平均

が成り立つという性質のことです。これでは何のことだか分かりませんので、私の理解している限りでの「エルゴード性」の意味を例を用いて説明いたします。
今、1万人が一列に並んでいるとします。そしてそれぞれ1名に1個のサイコロが与えられています。この1万個のサイコロはまったく同じ形、構造であるとします。もう一人、大きな太鼓をたたく係がいます。この人は、一定間隔で太鼓をドンとたたきます。太鼓がドンと鳴ったら1万人が一斉にサイコロを振り、出た目の数を記録します。ドンと太鼓がなるたびに1万人はサイコロを振って、出た目の数を記録し続けるものとします。

そうすると、1万人はそれぞれ、サイコロの出た目が時間の古いものから順に並んだ記録を持つことになります。この中の誰か一人をピックアップして、その人のサイコロの目の列の平均を取ると、これが(有限時間の)時間平均です。もしサイコロがどの目も均等な確率で出るようになっているのであれば、この時間平均は、時間の長さをどんどん長くしていくと(つまりこの人のサイコロの振る回数をどんどん増やしていくと)

  • \frac{1}{6}\times{1}+\frac{1}{6}\times{2}+\frac{1}{6}\times{3}+\frac{1}{6}\times{4}+\frac{1}{6}\times{5}+\frac{1}{6}\times{6}=3.5

に収束するはずです。これが(無限時間の)時間平均です。(下図参照)

一方、集合平均というは、ある時刻を固定し、その時の1万人のサイコロの出た目の数の平均を取ることです。(下図参照)

今は、1万人としていますが、理想的には無限の人間がサイコロを振っていると考えます。その平均をとれば、やはりきっと

  • \frac{1}{6}\times{1}+\frac{1}{6}\times{2}+\frac{1}{6}\times{3}+\frac{1}{6}\times{4}+\frac{1}{6}\times{5}+\frac{1}{6}\times{6}=3.5

になるでしょう。この「1個人をピックアップした場合の」時間平均と、「ある時刻を固定した場合の」集合平均が等しくなる、というのがエルゴード性という性質です。この例の場合は、どのサイコロをどの時点で振る動作もまったく同等ですので、上の図で縦方向に無限に平均をとっても横方向に無限に平均をとっても同じ値になることは直感的に分かります。


しかし、今、待ち行列で考えているWIPの変化は、この上の例と2つの点で異なっています。


第1に、WIPの変化は時間的には連続の値をとります。この点は、上記の離散した時間(つまり太鼓をドンと鳴らした瞬間)をだんだん多くしていけば、連続の時間を近似出来ると考えます。ここについて深入りすると大変そうなので(無限を扱うのが大変)私は入り込まないことにします。


第2の異なる点は、WIPの値は各時刻で独立ではない、ということです。上のサイコロの例では、前にドンが鳴った時の目がどの目であっても、次のドンで出る目に影響を与えません。毎回がまっさらな状態です。ところがWIPの場合、ある時刻に2個のロットがあった(WIPが2)状態でその1秒後にWIPが1000になっているのは、不可能ではありませんが、その確率はとても小さいと言えるでしょう。逆に今、WIPが1000であったとしてその1秒後にWIPが0になる確率も少ないでしょう。つまりWIPの場合は、過去の値が現在に影響を与えるということです。


このような場合でもエルゴード性は成り立つのでしょうか?
エルゴード性とは?(2)」に続きます。