統計力学とサイバネティックスのつながり(1)
「サイバネティックス 第2章「群と統計力学」から(1)」からウィーナのサイバネティックスの内容をずっと考察してきました。それを踏まえて、第3章「時系列、情報および通信」の以下の内容
(3.34)は、分布のパラメターに依存するの時系列のひじょうに重要な集合をあらわしている。われわれはこの分布のすべてのモーメント、したがってすべての統計的パラメターが函数:
(3.35)にどのように関係するかを上に示したのであるが、ここに函数は統計数学者の扱う自己相関函数である。したがっての分布の統計はのそれと同じであり、また実際にもし
(3.36)とおくならばからへの変換は測度を保存することが証明されるのである。換言すれば、時系列は統計的平衡にある。
「サイバネティックス 第3章 時系列、情報および通信」より
を読んだ時に、自分の中では、ウィーナーがサイバネティックスを統計力学と結びつけていた訳が分かったような気がしました。どう分かったのか、うまく説明出来ませんが、なんとか書いてみます。
(3.36)
は、統計力学から見れば、が位相空間の座標に対応し、それが時間の経過とともに移動します。そして時間の平行移動にあたる変換がですが、この変換が測度を保存する、ということは解析力学におけるリウヴィル(Liouville)の定理(時間変換で位相空間内の任意の領域の体積が変わらない)に対応します。数学的にはどちらにもエルゴード定理を適用することが出来、
を導くことが出来ます。ウィーナーのサイバネティックスの一部になっている時系列の理論(今の言葉で言えば確率過程論)も統計力学もこの時間平均を集合平均や位相平均で置き換えることを基礎にして理論を発展させています。
- とはいえ、ウィーナーの時系列理論はエルゴード定理を本当に基礎におかなければならなかったのか、疑問に思います。ウィーナーの論の進め方は、
- となっているようなのですが、最初から「エルゴード的な時系列を取り上げる」と宣言しておけばエルゴード定理を持ち出す必要はなかったように思えます。
- そのほかに気づいたことは、解析力学におけるハミルトンの正準方程式に対応するものがウィーナーの時系列の理論にはない、ということです。
それはともかく、今になって第2章の「群と統計力学」の最後に書かれた次の文章の意味が分かりました。
次の章では、時系列の統計力学を論ずる。この分野では熱機関の統計力学の場合とはひじょうに事情がちがっており、生体内におこっていることの模型としてかなり役立つものなのである。