統計力学とサイバネティックスのつながり(2)

私は誰かが

と書いていたのを読んだような気がずっとしていたのですが、今、確かめるとこれはどうも私の早とちりだったようです。

ウィーナー自身はサイバネティックスの序章でこう言っています。

 このようにしてわれわれは、通信工学における設計の問題から、統計力学の一分野と見られる一つの統計的な科学をつくりあげることになった。


サイバネティックス 序章」より

この「一つの統計的な科学」は「サイバネティックス」であるとも読めますし、そうではなくて単に、その一部である時系列の理論(今の言葉で言えば確率過程論)のことを指している、とも読めます。今まで私は前者であると解釈していましたが、後者と解釈すれば先の問題は解決します。また、松岡正剛氏が「松岡正剛の千夜千冊『サイバネティックス第二版』ノーバート・ウィーナー」でやはりサイバネティックスを「統計力学の一分野と見るのが正しいであろう」と書いておられたと記憶していて、それをうれしくも思い、逆にもしそうであるならば私の上の疑問を正剛氏はどう考えてみえるのだろうか、とも想像していたのですが、今、読み直して見るとそれは私の記憶違いでした。実際の文章は以下のものでした。

 しかし過不足なくいうのなら、サイバネティックス統計力学あるいは統治力学の分野から派生した「フィードバックの科学」ないしは「システムを作動させる科学」として誕生したものなのである。


松岡正剛の千夜千冊『サイバネティックス第二版』ノーバート・ウィーナー

サラッと「統治力学」なる語を文章に入れていたことに今まで気づかなかった自分の迂闊さに驚きましたがそれは脇に置くとして、ここでは「分野から派生した」と書かれており、統計力学の範囲に留まっているとは書かれていませんでした。派生したものであれば、統計力学を越えて、別の原理原則を持ってもかまわないわけです。


ここで自分の考えをまとめます。


では、サイバネティックスの「第4章 フィードバックと振動」の内容は統計力学とどのような関係にあったのでしょうか? フィードバック系に確率的な不規則信号を入力信号または外乱として入力し、出力信号がフィードバックによってどれほど改善されたのかを研究することをウィーナーは構想していたのではないか、と私は考えています。つまりフィードバック系の統計的な振る舞いの研究です。ですから、第4章の内容もウィーナーの頭の中では新しい統計力学の一部と考えていたのだろうと思います。しかし第5章「計算機と神経系」や第6章「ゲシュタルトと普遍的概念」は統計的な考えでは捉え切れないだろうと考えています。