ローマ人の物語 ハンニバル戦記[上]

塩野七生の「ローマ人の物語」第2巻は、「ハンニバル戦記」という題であり、ローマとカルタゴの戦争であるポエニ戦争のことを記しています。文庫化されるにあたり「ハンニバル戦記」は上中下3冊に分かれました。これはその[上]です。
ポエニ戦争は第1次、第2次、第3次とあって、[上]は第1次ポエニ戦争とその後の期間を扱っています。カルタゴの名将ハンニバルは[上]の中ほどで生まれたぐらいで、まだ彼の活躍する場面はありません。ローマ側もこれぞというヒーローは出てきません。印象に残ったのはレグルスとメテルスぐらい。
そうは言っても、ローマ、カルタゴ両国に国柄というか国格(「人格」というように国の中心性格)というか何かしら個性のようなものが表れていて、退屈にはなりません。著者は「読者へ」でこう書いています。

 ちなみに、一年間で世界中の歴史を教えなくてはならないという制約があるのはわかるが、日本で使われている高校生用の教科書によれば、私がこの巻すべてを費して書く内容は、次の五行でしかない。
 ----イタリア半島を統一した後、さらに海外進出をくわだてたローマは、地中海の制海権と商権をにぎっていたフェニキア人の植民都市カルタゴと死活の闘争を演じた。これを、ポエニ戦役という。カルタゴを滅ぼして西地中海の覇権をにぎったローマは、東方では、マケドニアギリシア諸都市をつぎつぎに征服し、さらにシリア王国を破って小アジア支配下に収めた。こうして、地中海はローマの内海となった----
 これが、高校生ならば知らないと落第する、結果としての歴史である。これ以外の諸々は、プロセスであるがゆえに愉しみともなり考える材料も与えてくれる、オトナのための歴史である。

     1993年春、ローマにて
                        塩野七生

さすがは作家、売り口上がウマイです。
少し、注釈めいたことを付け加えると、この[上]ではまだ地中海はローマの内海にはなっていません。ローマはようやくシチリア島サルディニア島コルシカ島を得たところです。今のチュニジアにはカルタゴが健在です。スペインもまだカルタゴ領です。死闘は第2次、3次ポエニ戦争で行われます。


この本の扱っている時代:BC264〜BC241