QNA読解:5.1 GI/G/1待ち行列(7)

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QNA読解:5.1 GI/G/1待ち行列(6)」の続きです。
QNA読解:5.1 GI/G/1待ち行列(6)」の最後ではM/G/1におけるVar(N)の式

  • Var(N)=\lambda{EW}+\rho+\rho^2c_s^2-\lambda^2Var(W)・・・・(63)

を導出しました。今度はこれをGI/G/1用に補正します。と言っても論文はVar(N)ではなく2乗変動係数c_N^2の補正を求めています。しかし、

  • Var(N)=(EN)^2c_N^2・・・・(66-1)

ですから、c_N^2を近似出来ればVar(N)も近似出来ます。(66-1)から

  • c_N^2=Var(N)/(EN)^2・・・・(ア)

QNA読解:5.1 GI/G/1待ち行列(2)」に登場した式(47)

  • EN=\rho+\lambda{EW}・・・・(47)

を(ア)に代入すれば

  • c_N^2=Var(EN)/(\rho+\lambda{EW})^2・・・・(イ)

論文では、この式をGI/G/1のために以下のように補正しています。

  • c_N^2=Y_1Y_2/Y_3・・・・(64)

ただしY_1は式(63)でEWについては「QNA読解:5.1 GI/G/1待ち行列(2)」に登場した式(44)、つまり

  • EW=\tau\rho(c_a^2+c_s^2)g/2(1-\rho)・・・・(44)
  • ただし
    • g{\eq}g(\rho,c_a^2,c_s^2)=\left\{{\exp\left[-\frac{2(1-\rho)}{3\rho}\frac{(1-c_a^2)^2}{c_a^2+c_s^2}\right]\text{ c_a^2<1}\atop{1}\text{                             c_a^2{\ge}1}}・・・・(45)

で求め、Var(W)については「QNA読解:5.1 GI/G/1待ち行列(4)」に登場した式(54-1)

  • Var(W)=(EW)^2c_W^2・・・・(54-1)

で求めた値を入れて計算したVar(W)の値です。これに対してY_2を掛けることによって補正をしています。Y_2

  • Y_2=(1-\rho+\sigma)/\max\{(1-\sigma+\rho), 0.000001\}・・・・(65-1)

です。この式の分母で\maxを用いているのは、計算上ゼロで割ることがないように、ということです。ですから実質は

  • Y_2=(1-\rho+\sigma)/(1-\sigma+\rho)・・・・(ウ)

です。私はなぜ、これが補正になるのか理解できません。ただ、M/G/1の場合には

  • Y_2=1

になることを示すことは出来ます。\sigmaは待ちが存在する確率P(W>0)でした。そして\sigmaは「QNA読解:5.1 GI/G/1待ち行列(2)」に登場した式(48)(49)

  • \sigma{\eq}P(W>0)=\rho+(c_a^2-1)\rho(1-\rho)h(\rho,c_a^2,c_s^2)・・・・(48)
  • ただし
    • h(\rho,c_a^2,c_s^2)=\left\{{\frac{1+c_a^2+\rho{c_s^2}}{1+\rho(c_s^2-1)+\rho^2(4c_a^2+c_s^2)}\text{    c_a^2<1}\atop{\frac{4\rho}{c_a^2+\rho^2(4c_a^2+c_s^2)}}\text{              c_a^2{\ge}1}}・・・・(49)

によって近似的に計算されます。ここでM/G/1の場合を考えるとc_a=1ですので、式(48)から

  • \sigma{\eq}P(W>0)=\rho・・・・(エ)

になります。これを(ウ)に代入するとY_2=1になることは明らかです。

  • ここで(エ)の意味をもう少し検討します。到着したジョブが待ちになる確率P(W>0)は、到着した時点で装置がビジーである確率に等しいです。PASTAにより、到着した時点で装置がビジーである確率は、時間平均で見た装置がビジーである確率に等しく、これは利用率\rhoに等しいことが分かります。GI到着の場合はもはやPASTAが成り立ちませんので、到着時に装置がビジーである確率\sigma{\eq}P(W>0)と時間平均で見た装置がビジーである確率\rhoは等しくありません。その場合はY_2は1に等しくなりません。

最後に式(64)のY_3

  • Y_3=\max\{(\rho+\lambda{EW})^2, 0.000001\}・・・・(65-2)

です。ここでも式(64)でゼロで割ることを避けるために\maxを使用しています。ですから実質的には

  • Y_3=(\rho+\lambda{EW})^2・・・・(オ)

です。ですから、M/G/1の時、式(64)は式(イ)に一致します。論文では

GI/M/1待ち行列について、(65)におけるY_2は正しい修正を提供する

とありますが、この理由も私には分かりません。


さて、c_N^2を式(65)で求めることが出来れば、これを用いてVar(N)E(N^2)を求めることが出来ます。

  • Var(N)=(EN)^2c_N^2・・・・(66-1)
  • E(N^2)=Var(N)+(EN)^2・・・・(66-2)


QNA読解:5.2 GI/G/m待ち行列」に続きます。