ジャクソンネットワークを工場の生産の数学的モデルとして使用しようとする際に気になったことの一つは、ジャクソンネットワークでは、あるステーションで処理を終えたジョブが次にどのステーションに向かうかが、確率によってのみ、すなわちによってのみ決定される点です。このようなモデルでは、たとえば
図1
上図のような、あるステーションを3回繰り返して通過したのち工場の外に出るラウティングを持つジョブを表現することは出来ません。ジャクソンネットワークではこれを
図2
と表さざるを得ません。しかし、こうすると、たとえば1回目に装置2(1台からなるステーションであると仮定しています。)を通過したジョブでも1/3の確率で工場の外に出ることになってしまいます。あるいは装置2を3回目に通過するジョブでも2/3の確率で、工場を出ないことになってしまいます。このため、きっちり3回、装置2を通過してから工場を出るようなジョブのラウティングをジャクソンネットワークで表すことが出来ないのです。
また、一般には工場には複数のラウティングが存在します。つまり工場には複数の種類のジョブが存在し、それぞれの種類毎に異なるラウティングを持つのが一般的です。このようなこともジャクソンネットワークでは表すことが出来ません。
ラウティングを持つが、外部からネットワークに到着するジョブの到着時刻の間隔の分布は指数分布であり、装置の処理時間の分布も指数分布であるような、待ち行列ネットワークは「ケリーネットワーク」と呼ばれており、これも積形式解を持つということだそうです。これならばジャクソンネットワークより工場のモデルに適していると思います(もちろん、装置の処理時間が指数分布というところが依然気にはなりますが)。そこで、これについてしばらく調べていきます。
図1のネットワークに「クラス」を導入します。
「クラス」はジョブの種類を表します。ここでは装置1や装置2を何回目に通過するのであるかを区別するものとします。クラスを線の色で表しました。装置(=ステーション)の前後では線の色は同じにしています。クラスが変わるのはステーションとステーションの間です。これをケリーネットワークの枠組みで扱います。その枠組みというのは、
この枠組みはやはり確率的にジョブの行先を決定する枠組みですが、クラスというジョブを区別するものを導入したおかげで、図1のような確定的なラウティングを表すことが出来ます。図の装置の番号をステーションの番号に採用し、黒い線のクラスの番号を1、赤い線のクラスの番号を2、青い線のクラスの番号を3で表すとすれば、装置2に関しては、
- 、他のをゼロ
- 、他のをゼロ
- 全てのをゼロ
とすれば、装置2を終えたジョブの行先を正確に表すことが出来ます。
もう一つ例を示します。装置3を終えたジョブはクラスが1から2に変わりますので
- 、他のをゼロ
と置けば、クラスが1から2に変わって装置1に向かうことを表すことが出来ます。