ケリーネットワークの積形式解の存在証明の試み(再挑戦)(1)

複数クラスを持つM/M/m待ち行列(5)」の続きです。


ケリーネットワーク」が積形式解を持つことの証明に再挑戦します。

待ち行列ネットワークのステーションの数をNとします。ステーションを区別するために1から順番に番号をつけていきます。i番目のステーションm_i台の装置から成り、装置の処理時間は指数分布であるとします。ジョブのクラスの数をQとします。クラスに1から順番に番号をつけていきます。外から各ステーションへの各クラスのジョブの到着の時刻の間隔も指数分布であるとします。
i番目のステーションを通るクラスkジョブスループット\theta_{ik}で表します。また、i番目のステーションに外から入ってくるクラスkジョブスループット\lambda_{ik}で表します。ステーションiを終えたクラスkジョブがクラスsになってステーションjに進む確率をr_{ikjs}で表します。そうすると、ステーションjにクラスsジョブの入ってくる量\theta_{js}

  • \theta_{js}=\lambda_{js}+\Bigsum_{i=1}^N\Bigsum_{k=1}^Q\theta_{ik}r_{ikjs}・・・・・・(1)

で表すことが出来ます。式(1)は\thetaについての連立一次方程式になっています。これが\thetaについて解けると仮定します。これを、

  • \theta_{js}=f_{js}(\Lambda,R)・・・・・・(2)

と表わすことにします。ただし\Lambda\lambda_{ik}を簡略的に表わしたものであり、R(r_{ikjs})を簡略的に表わしたものとします。さてaを任意の定数として、式(1)で

  • \theta_{ik}a\theta_{ik}
  • \lambda_{ik}a\lambda_{ik}

で置き換えると、やはり式(1)が成り立つので式(2)について

  • f_{js}(a\Lambda,R)=af_{js}(\Lambda,R)・・・・・・(3)

が成り立つことが分かります。一方、定義から

  • \Bigsum_{s=1}^Q\theta_{js}=\frac{m_ju_j}{t_{ej}}・・・・・・(4)

です。ここでステーションiのクラスsによる利用率u_{js}

  • u_{js}=\frac{\theta_{js}t_{ej}}{m_j}・・・・・・(5)

で定義します。このようにすると

  • \Bigsum_{s=1}^Qu_{js}=\Bigsum_{s=1}^Q\frac{\theta_{js}t_{ej}}{m_j}=\frac{t_{ej}}{m_j}\Bigsum_{s=1}^Q\theta_{js}=\frac{t_{ej}}{m_j}\frac{m_ju_j}{t_{ej}}=u_j

つまり

  • \Bigsum_{s=1}^Qu_{js}=u_j・・・・・・(5’)

となり、u_{js}u_jのうちのクラスsによる部分であることが分かります。
式(5)を変形して

  • \frac{1}{t_{ej}}=\frac{\theta_{js}}{m_ju_{js}}・・・・・・(6)

ネットワークの「状態」は各ステーションでの「状態」を列記したものとし、各ステーションでの「状態」は「複数クラスを持つM/M/m待ち行列(4)」で定義したのと同じように、ジョブが現実にどの装置上にあるかにかかわらず、位置1から順に詰めていくが、クラスでソートしない並びを1つの状態とします。また、処理中のどれかのジョブが終了して出て行った場合は、そのジョブの位置より右側の全てのジョブが1つずつズレるものと考えることも同様です。


ネットワークの状態Sを考え、状態Sの時にステーションjにクラスsジョブが到着して出来た状態をS(+(j,s))と表すことにします。局所平衡方程式を組立てるのに、まず状態Sの時にステーションjにクラスsジョブが到着して状態S(+(j,s))に遷移することが考えられます。次に、ステーションiからクラスkジョブが出発し、それが確率r_{ikjs}でクラスsに変わってステーションjに到着し状態S(+(j,s))に遷移することが考えられます。
ここで問題になるのがその遷移前の状態がどのような状態であるか、です。たとえばs=2としましょう。そして現在のネットワークの状態がS(+(j,2))であるとしましょう。今、ある状態からステーションiで終了したクラスkジョブが確率r_{ikj2}に従ってクラス2に代わりステーションjに向かった結果ネットワークの状態がS(+(j,2))としましょう。ここで問題を簡単にするためにkもまた2であるとしましょう。すなわちステーションiで終了したクラス2のジョブがクラスを変えることなくステーションjに到着するとしましょう。このジョブステーションjに到着した時のステーションiの状態は\{(1,2)\}であり、ステーションiの装置台数は3台(すなわちm_i=3)であるとしましょう。ではこのジョブが到着する前のステーションiの状態は何だったでしょうか?
その状態としては

  • \{(2,1,2)\}

の場合と

  • \{(1,2,2)\}

の場合が考えられます。


ケリーネットワークの積形式解の存在証明の試み(再挑戦)(2)」に続きます。