ケリーネットワークの積形式解の存在証明の試み(再挑戦)(2)

ケリーネットワークの積形式解の存在証明の試み(再挑戦)(1)」の続きです。


では、それぞれの状態からクラス2のジョブdtの間に出発する確率はどうなるでしょうか?
\{(2,1,2)\}の場合は

  • \frac{1}{t_{ei}}dt

\{(1,2,2)\}の場合は

  • \frac{2}{t_{ei}}dt

になることが分かります。\{(2,1,2)\}の時に出発するのは左側の2だけです。もし右側の2が出発したら、出発後の状態が\{(2,1)\}になってしまいます。) さて状態\{(2,1,2)\}の定常状態確率[tex:P*1]と状態\{(1,2,2)\}の定常状態確率[tex:P*2]は等しいはずですので、ここは状態\{(2,1,2)\}に代表させて、そこから

  • \frac{3}{t_{ei}}dt

の確率でクラス2のジョブが出発すると考えましょう。つまり遷移後の状態\{(1,2)\}に出発したジョブのクラス2を左端に押し込んで出来た状態で代表させます。


もうひとつ例を出しましょう。遷移後のステーションiの状態が\{(3,1)\}の場合はどうなるでしょう。この場合、遷移前の状態として考えられるのは\{(2,3,1)\}\{(3,2,1)\}\{(3,1,2)\}の3通りです。そしてそれぞれの状態でクラス2のジョブdtの間に出発する確率は、どの状態の場合も等しく

  • \frac{1}{t_{ei}}dt

になります。ここでも遷移後の状態\{(3,1)\}に出発したジョブのクラス2を左端に押し込んで出来た状態\{(2,3,1)\}で代表させれば、そこから

  • \frac{3}{t_{ei}}dt

の確率でクラス2のジョブが出発すると考えてかまわないことになります。


このようにどの場合でも合計した遷移確率が

  • \frac{\min(k_i+1,m_i)}{t_{ei}}dt

(ただしk_iは遷移後の状態でのステーションiでのジョブの数)になる理由は、下図のように考えれば納得行きます。

つまり出発したジョブを押し込む場所(そのジョブが元いた位置)の可能性として\min(k_i+1,m_i)個の場所が考えられる。そして、その押し込んだジョブが終了して出発する確率を考えればよい、ということです。


状態Sステーションiにクラスkジョブを左から押し込んで出来た状態をS(@(i,k))で表すことにします。状態Sの時にステーションiの状態ですでに全ての装置が処理中の場合は、S(@(i,k))でのステーションiでの状態は記述における丸カッコ内の一番右側のジョブを待ち状態側に押し出して作るものとします。たとえばm_i=4の時、状態\{(2,3,1,6)4,5,3\}にクラス1を左から押し込んだとすれば、状態\{(1,2,3,1)6,4,5,3\}になることにします。
このようにS(@(i,k))を表すことで、「ジャクソンネットワークの積形式解の存在(1)」の式(6)に対応するケリーネットワークのための局所平衡方程式を次のように立てることが出来ます。

  • P(S(+(j,s)))\frac{\min(k_j+1,m_j)}{t_{ej}}dt=P(S)\lambda_{js}dt+\Bigsum_{i=1}^N\Bigsum_{k=1}^QP(S(@(i,k)))\frac{\min(k_i+1,m_i)}{t_{ei}}dtr_{ikjs}・・・・・・(7)

ただしここでk_jは「状態Sにおける」ステーションjでのジョブの数を表します。よって

  • P(S(+(j,s)))\frac{\min(k_j+1,m_j)}{t_{ej}}=P(S)\lambda_{js}+\Bigsum_{i=1}^N\Bigsum_{k=1}^QP(S(@(i,k)))\frac{\min(k_i+1,m_i)}{t_{ei}}r_{ikjs}

ここで式(6)

  • \frac{1}{t_{ej}}=\frac{\theta_{js}}{m_ju_{js}}・・・・・・(6)

を用いると

  • P(S(+(j,s)))\frac{\min(k_j+1,m_j)\theta_{js}}{m_ju_{js}}=P(S)\lambda_{js}+\Bigsum_{i=1}^N\Bigsum_{k=1}^QP(S(@(i,k)))\frac{\min(k_i+1,m_i)\theta_{ik}}{m_iu_{ik}}r_{ikjs}・・・・・・(8)

これを
ジャクソンネットワークの積形式解の存在(3)」の式(12)の時と同じように式(1)

  • \theta_{js}=\lambda_{js}+\Bigsum_{i=1}^N\Bigsum_{k=1}^Q\theta_{ik}r_{ikjs}・・・・・・(1)

と比較して、式(8)と(1)の項の対応関係を指摘したいところですが、おしいことに

  • \theta_{js}

に対応するのが式(8)の左辺では

  • P(S(+(j,s)))\frac{\min(k_j+1,m_j)\theta_{js}}{m_ju_{js}}

なのに対して右辺では

  • P(S(@(j,s)))\frac{\min(k_j+1,m_j)\theta_{js}}{m_ju_{js}}

P(S(+(j,s)))P(S(@(j,s)))だけが異なっています。
さて、どうしたらよいでしょうか?


ケリーネットワークの積形式解の存在証明の試み(再挑戦)(3)」に続きます。

*1:2,1,2

*2:1,2,2