工場にはボトルネックが1つ存在する(1)

工場統計力学は、複雑な生産現場の振る舞いを近似的にでも理解するために、いくつかのモデルを提供することを目指しています。モデルというのは現実の一面を取り出して組立てたものです。現実に比べれば極めて単純です。もちろん、モデルの振る舞いは現実の生産現場の振る舞いとは異なります。では、なぜ、モデルが必要なのでしょうか? モデルを頭の中(心の中)に持っているとどんなメリットがあるのか、私なりに考えて見ますと、思い浮かぶのが

  1. あわてない
  2. 発想が出てくる
  3. 予想を立てることが出来る

だと思っています。1番目の「あわてない」、大切なことだと思います。現実の複雑さに直面してあたふたするとそれだけで思考能力を奪われてしまいます。ここにモデルというものを間に挟んで見ることによって、複雑さの中の単純さが見えてくるので、あわてることがなくなり、対策を考えようとする余裕が出てきます。現実は複雑でさまざまな面をもっていますから、1つのモデルで全てを間に合わせることは出来ませんし、それを試みるのは危険です。ですから、モデルはいくつかの局面に応じていくつか製作されるべきだと思います。
自己紹介ペーパー」で示した4つの絵は、私が今まで独学してきたなかで得た、役に立ちそうなモデルを図示したものです。今日は最初の「1.工場にはボトルネックが1つ存在する。」について紹介します。

このモデルは、工場を水道管にたとえるモデルです。図の上の水色の矢印が水道管に入ってくる水を表します。その下にある変な格好をしたものが水道管を表しています。このモデルの水道管は現実の水道管と異なって場所によって太さが異なっているとします。水色は水を表しています。下の矢印は水道管から出て行く水を表します。この図が表したいのは、水道管から出て行く水の量は、1箇所で、つまり、水道管が最も狭いところで決まる、ということです。
次に、このモデルが工場の何を表しているかについて述べます。水道管から出て行く水の流量は、工場から出て行く製品の数(正確には単位時間あたりの数)を表しています。水道管の太さは生産における個々の工程での処理能力(単位時間あたりに材料を処理出来る数)を表しています。工場から出て行く製品の単位時間あたりの数(これを「スループット」と言います)は、工場の中で処理能力が最も低いところで決まる、というのがこのモデルの示すところです。スループット(水量)を決めるのは工場全体ではありません。一箇所です。そしてその一箇所のことを「ボトルネック」と言います。ボトルネック以外を改善しても流量は増えません。
誰かが下図の赤で示す箇所について

「ここは前後に比べて狭いので改善しま〜す。」
と言ったとします。この人は自発的に改善提案を出しました。えらい人ですね。その積極性は評価されるでしょう。そしてこの人はこの箇所の改善に汗水流したとします。そしてめでたくその箇所の水道管は広くなったとします。(つまりその工程の生産性は向上しました。)でも、その努力は水量のアップ(生産量のアップ)にはまったく役に立ちません。水量を決めているのはこの場所ではないからです。


ここまでお話しすると「そんなの当たり前だよ〜」とか言う人もいるかもしれません。しかし、この人が改善した場所とボトルネックの箇所で担当部門が異なっていたらどうでしょうか? そして部門間の情報共有があまり出来ていなかったらどうでしょうか? この人と同じように、真のボトルネックを知らずに、自分の部門で無駄な改善を行って労力を浪費することがあるかもしれません。各部門での改善推進運動がそのような無駄な努力を奨励してさえいるかもしれません。当たり前と言って聞き流していてよいでしょうか?
あるいは、製品を作る工程が複数の会社にまたがっている場合はどうでしょうか? この場合、情報の共有はもっとなされていないかもしれません。そういうことに気づくには上のような図を頭の片隅においておくのがよいかもしれません。