ケリーネットワークでのサイクルタイム

ケリーネットワークの定常状態確率とジャクソンネットワークの定常状態確率(2)」の続きです。


ケリーネットワークを通過するジョブがネットワークに滞在する期間の平均、すなわちサイクルタイムはどれだけでしょうか?
まず、ある1つのステーションにおける定常状態でのジョブ数の分布を求め、次にそのステーションでのサイクルタイムを求め、最後にそれをジョブラウティングに順番に登場するステーションについて足し合わせることでジョブサイクルタイムを求めます。


まず、ステーションiジョブ数の定常分布を求めます。式(17)

  • P(\vec~k)=\prod_{j=1}^Np\{M/M/m_j,u_j\}(k_j)・・・・・・(17)

で、ステーションi以外のステーションでの取り得る全てのジョブ数について足し合わせることによりステーションiジョブ数の定常分布を求めます。

  • P(k_j)=\Bigsum_{k_1=1}^{\infty}\Bigsum_{k_2=1}^{\infty}...\Bigsum_{k_{i-1}=1}^{\infty}\Bigsum_{k_{i+1}=1}^{\infty}...\Bigsum_{k_N=1}^{\infty}P(\vec~k)
    • =\prod_{j=1,j{\ne}i}^N\Bigsum_{k_j=1}^{\infty}p\{M/M/m_j,u_j\}(k_j){\times}p\{M/M/m_i,u_i\}=p\{M/M/m_i,u_i\}

つまり

  • P(k_j)=p\{M/M/m_i,u_i\}・・・・・・(18)

つまり、ステーションiジョブ数の定常分布は1個だけの待ち行列M/M/m_i待ち行列の定常分布と同じである、ということになります。


次にステーションiでのサイクルタイムCT_iを求めます。式(18)からこのステーションの平均待ちジョブ

  • L_{qi}

M/M/m_iの平均待ちジョブ数と同じになるので「M/M/mにおける待ち時間の式の導出(3)」の式(19)を参照すれば、

  • L_{qi}=\frac{m_i^{m_i}u_i^{m_i+1}}{m!(1-u)^2}p_0・・・・・・(19)

となります。一方、このステーションを通るスループット\theta_iは、

  • \theta_i=\frac{m_iu_i}{t_{ei}}・・・・・・(20)

になります。ここでリトルの法則から平均待ち時間CT_{qi}

  • CT_{qi}=\frac{L_{qi}}{\theta_i}

よって

  • CT_{qi}=\frac{m_i^{m_i}u_i^{m_i+1}}{m!(1-u)^2}p_0{\times}\frac{t_{ei}}{m_iu_i}

よって

  • CT_{qi}=\frac{m_i^{m_i-1}u_i^{m_i}}{m!(1-u)^2}p_0t_{ei}

これが待ち時間ですから、サイクルタイム

  • CT_i=\left\(\frac{m_i^{m_i-1}u_i^{m_i}}{m!(1-u)^2}p_0+1\right)t_{ei}・・・・・・(21)

となります。
これでステーションiでのサイクルタイムが求まりました。


最後に、特定のクラスのジョブのネットワークでのサイクルタイムは式(21)の

  • CT_i

をそのクラスの持つラウティングに順番に登場するステーションについて足し合わせることで求めることが出来ます。


式(21)で注意すべきことは、この式にはクラスの情報が全く入っていないことです。つまり、ケリーネットワークでの各ステーションでのサイクルタイムは、それをジャクソンネットワークと見なして、装置台数と利用率と処理時間の平均値だけから計算すればよいことになります。
これで「ジャクソン・ネットワークのサイクルタイム(2)」の最後で

悔しいです。

と書いた問題が解決しました。つまり、

ということです。