変動が待ちを、そして仕掛をもたらす

工場にはボトルネックが1つ存在する(1)」のところで、

工場統計力学は、複雑な生産現場の振る舞いを近似的にでも理解するために、いくつかのモデルを提供することを目指しています。

と書きました。今日、ご紹介する下の図は、生産現場の振る舞いを表す有力なモデルの1つである「待ち行列モデル」を表したくて書きました。


この図はモデルそのものというより、モデルによって得られた結果について表しています。まずは、その前に待ち行列モデルがどのようなモデルであるかを下の図に示します。


この図に描かれている「ジョブ」というのが製品(部品)です。それが何台かの装置の前で待っている図です。これは工場の中に限らずよく見る光景です。スーパーのレジでは、ジョブはお客で、製造装置がレジにあたります(ちょっと、並び方が違いますが・・・)   あるいはキャッシュディスペンサの前に並ぶ人々、というのもあります。このほうが、1台1台のディスペンサの前に行列を作るのではなく、数台のディスペンサに共通な行列を1本作って並ぶので、本来の待ち行列モデルに近い現象です。


ところで、待ち行列はなぜ出来るのでしょうか? やってくるお客の数が、ディスペンサでやり取りする、あるいはレジでやり取りする時間に追いつかないからでしょうか? 今の言葉をもう少し正確に言い直してみましょう。「ある一定時間(たとえば1分とか1時間とか)の間にやってくる客の数が、同じ時間の間に装置が処理出来る客の数より大きい」から待ち行列は出来るのでしょうか? 短期的にみれば答はYESです。長期的にみてもYESである場合もあります。しかし、この場合は、待ち行列の長さは時間が経つにつれてどんどん長くなっていくはずです。待ち行列理論ではこのような現象は「おもしろくない」「簡単過ぎる」と言って扱いません。長期的に見れば、キャッシュディスペンサなりレジの担当なりの能力が、客の到着する量よりも大きいのに待ちが出来てしまう、そのような場合を扱います。現実の場合も、キャッシュディスペンサでも処理能力は客の到着する量よりも大きいはずです。さもなければ、取り扱い時間が終る時には長蛇の列が出来ているはずです。実際は、ある時はまったく空いていたり、ある時は長い列が出来ていたりして、列の状態が変動しています。待ち行列理論で扱うのはこのような場合です。


さて話を工場に戻します。工場の装置の処理能力より部品の到着する量が、長時間の平均で見た場合に足りなければ、待ち行列理論の登場する余地はありません。その状況に対する解決法は単純で、工場に投入する部品の数(正確には流量です。つまり一定時間に投入する部品の数です)を減らすか、あるいは装置を増やすかです。ところが工場内の装置の能力が平均としては足りているのに待ち行列が出来てしまうことがあります。ありますというか、よっぽどのことがない限り、待ち行列が出来てしまいます。それはなぜでしょうか? それは装置が空いているのに、その時に限って前工程からなかなか製品がやってこなかったり、反対に装置が製品を処理中で忙しいのに、その時に限って前工程から立て続けに製品がやってきたりするからです。つまり製品の到着の頻度に変動があるからですね。あるいは、こういう場合も考えられます。製品は前工程から定期的に規則正しくこの工程にやってくるとします。ところが装置での処理時間がある時は短かったり、ある時は長かったり変動すると、やはり待ち行列が出来る可能性があります。処理時間が長くなる代わりに故障が起きても待ちが発生します。よって装置側のいろいろな変動も待ち時間、待ち製品を発生させます。
今日のタイトル「変動が待ちを、そして仕掛をもたらす」はそのことを表しています。


上の最初の図は、装置の利用率(忙しい割合)を横軸に、平均待ち時間を縦軸にしたグラフです。装置が忙しくなればなるほど待ち時間は急速に長くなります。そして、この待ち時間は変動が大きいほど長くなります。この利用率と待ち時間の関係を明らかにするのが待ち行列理論です。しかし待ち行列理論については、決定打に欠けることと、説明が複雑になることの2つの理由から、ここではこれ以上説明いたしません。


難しい数式はともかく、結論は簡単です。それは、
生産現場から出来るだけ変動をなくすことが待ち時間の削減につながる
ということです。そして変動とは装置の故障であったり、処理時間のはらつきであったり、前工程からの製品の到着のばらつきであったり、装置の保守作業であったりするわけです。