こまめに運ぶと良い場合がある

これについては「Factory Physics」という本に印象深いお話が載っています。この本の著者(2名)は工場運用のコンサルタントをしているのですが、ある時、ある組立工場の見学をしたということです。そこでその工場の案内役が得々として、最近の改善事例を説明しているのを聞きました。ある一連の工程を改善することで、この部分で半製品が加工されるのに要する時間が数日から1時間に短縮されたと彼は説明しました。それが本当なら、工期短縮に関しては大成果です。ところが著者たちは次にこんなものを見てしまいました。その改善された一連の工程(これを「セルA」と呼ぶことにしましょう)から出てきた半製品は次に組立工程に運ばれるのですが、それがなんと、大きなカゴに、およそ10,000個の半製品を入れて、そのかごをフォークリフトで運んでいたのでした。ちなみに、セルAからは1時間に100個の加工された半製品が出てくるということです。


ということは、それをカゴに10,000個溜めるのに100時間かかるということです。これを見て著者たちは先ほどの改善に感心したことなど吹っ飛んでしまったのでした。たとえば、カゴに入れる量を半分の5,000個にし、100時間に1回運ぶ代わりに50時間に1回運ぶようにしただけで、50時間の短縮になります。それにこれを実行するのにお金はほとんどかからないでしょう。それを見逃しながら、たくさんお金をかけてセルAを改善するとはお金の無駄遣いです。


さらに、この例で1,000個を10時間に1回運ぶとすれば、どうでしょう。100時間が10時間になって90時間の短縮です。100個を1時間に1回運ぶとすれば? 50個を30分に1回運ぶとすれば?・・・・。だんだん運搬の頻度が増えてくると今度は運搬に負荷がかかり過ぎて、運搬費がバカ高くなったり、運び切れなくなったりしそうですね。ということはどこかに適切な個数があるわけです。1度に運ぶ半製品の集合を搬送バッチと言い、搬送バッチ1つの中の半製品の数を搬送バッチサイズと言います。今日のお話は「搬送バッチサイズが適切な値か見直してみよう」ということです。運搬の負荷があまり負担にならないならば、このようにこまめに運ぶだけで製造にかかる時間を大幅に短縮出来る場合があります。これは意外と盲点になっていると思います。一度、搬送バッチサイズを今の半分にしたらどのようになるか、その時、何が問題になるか、その問題は解決が難しいかどうか、思考実験してみてはどうでしょうか。



参考エントリ