M/D/1の定常状態分布の近似式

M/D/1の定常状態分布の求め方(2)」で導出した、M/D/1の定常状態分布を求める式

  • p(0)=1-u・・・・・(1)
  • p(1)=\frac{[1-A(0)]p(0)}{A(0)}・・・・・(8)
  • k{\ge}1の時
    • p(k+1)=\frac{p(k)-\Bigsum_{i=0}^{k-1}A(i+1)p(k-i)-A(k)p(0)}{A(0)}・・・・・(28)
  • ただし
    • A(k)=\frac{u^k}{k!}\exp(-u)・・・・・(4)

は、実際の計算が大変です。そこで、精度はある程度犠牲にして簡便に求める方法がないか調べてみます。「M/D/1の定常状態分布」で示したグラフを見ると、p(0)p(1)の間の比p(1)/p(0)は特別扱いしなければならないが、k{\ge}1の時のp(k+1)/p(k)はほぼ一定ではないか、という気がしてきます。一例として利用率uが80%、すなわちu=0.8、のときのグラフを再掲します。

実際に、k{\ge}1の時のb(k)=p(k+1)/p(k)をいろいろなuの値の場合で調べて見ると以下のグラフのようになります。

このグラフからkが大きいほど、b(k)=p(k+1)/p(k)は一定値に近づくことが分かります。(uが0.4以下の時にグラフの線がk=20まで続いていないのはp(k)p(k+1)も非常に小さな数になったためにExcelでの計算に誤差が大きく出て計算出来なかったことを表しています。)


そこで、

  • p(k+1)=p(k)b・・・・・(29)
    • ただしbは定数

と仮定して、全確率の定理

  • \Bigsum_{k=0}^{\infty}p(k)=1・・・・・(30)

と、M/D/1の平均待ち時間CT_q

を満たすようなp(k)を求めることにします。ただし、式(29)はk=1には成り立たないとします。それは、p(0)ジョブがシステムにまったくない状態の確率を表していますから式(1)が成り立つのは確実です。もし、式(29)がk=1の時にも成り立つとすると式(1)(29)(30)からM/M/1とまったく同じp(0)が導き出されます(「M/M/1における待ち時間の式の導出(2)」の式(9)参照)。すると

  • CT_q=\frac{u}{1-u}t_e・・・・・(31’)

が導き出され(「M/M/1における待ち時間の式の導出(2)」の式(15)参照)式(31)と矛盾する結果になってしまうからです。


では

  • p(k+1)=p(k)b・・・・・(29)
    • ただし
      • bは定数
      • k{\ge}1

として、式(30)(31)を満たすような定数bを求めることにします。まず、式(29)からk{\ge}1の時

  • p(k)=p(1)b^{k-1}・・・・・(32)

が導かれます。


次に、式(30)ですが、式(1)を考慮すれば、以下のように変形できます。

  • p(0)+\Bigsum_{k=1}^{\infty}p(k)=1
  • 1-u+\Bigsum_{k=1}^{\infty}p(k)=1
  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}p(k)=u・・・・・(33)

式(33)に(32)を代入して

  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}p(1)b^{k-1}=u
  • \frac{p(1)}{1-b}=u
  • p(1)=u(1-b)・・・・・(34)


次に、式(31)ですが、まずはリトルの法則を用いて平均待ちジョブL_qを求める式に変形します。この場合、WIPL_qサイクルタイムCT_qスループット

  • \frac{u}{t_e}・・・・・(35)

にあたるので

  • L_q=CT_q{\times}\frac{u}{t_e}

式(34)を用いれば

  • L_q=\frac{u}{2(1-u)}t_e\frac{u}{t_e}

よって

  • L_q=\frac{u^2}{2(1-u)}・・・・・(36)

一方、L_qの定義から

  • L_q=\Bigsum_{k=2}^{\infty}(k-1)p(k)・・・・・(37)

なので、式(36)を考慮すると

  • \Bigsum_{k=2}^{\infty}(k-1)p(k)=\frac{u^2}{2(1-u)}
  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}(k-1)p(k)=\frac{u^2}{2(1-u)}
  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}kp(k)-\Bigsum_{k=1}^{\infty}p(k)=\frac{u^2}{2(1-u)}

となります。ここで式(33)を考慮すると

  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}kp(k)-u=\frac{u^2}{2(1-u)}
  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}kp(k)=\frac{u^2}{2(1-u)}+u=\frac{u^2+2(1-u)u}{2(1-u)}=\frac{(u+2-2u)u}{2(1-u)}
  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}kp(k)=\frac{(2-u)u}{2(1-u)}・・・・・(38)

式(38)の左辺は

  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}kp(k)=\Bigsum_{k=1}^{\infty}kp(1)b^{k-1}=p(1)\Bigsum_{k=1}^{\infty}kb^{k-1}

となりますが、「補足」の式(2)を参照すれば

  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}kp(k)=p(1)\frac{1}{(1-b)^2}

ここで式(34)を考慮すれば

  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}kp(k)=u(1-b)\frac{1}{(1-b)^2}=\frac{u}{1-b}

これを式(38)の左辺に代入すれば

  • \frac{u}{1-b}=\frac{(2-u)u}{2(1-u)}
  • \frac{1}{1-b}=\frac{2-u}{2(1-u)}
  • 1-b=\frac{2(1-u)}{2-u}
  • b=1-\frac{2(1-u)}{2-u}=\frac{2-u-2+2u}{2-u}=\frac{u}{2-u}

よって

  • b=\frac{u}{2-u}・・・・・(39)


よってk{\ge}1の時のM/D/1の定常分布の近似式は以下のようになります。

  • p(k){\approx}p(1)b^{k-1}=u(1-b)\left(\frac{u}{2-u}\right)^{k-1}=u\left(1-\frac{u}{2-u}\right)\left(\frac{u}{2-u}\right)^{k-1}
    • =u\frac{2-u-u}{2-u}\left(\frac{u}{2-u}\right)^{k-1}=u\frac{2(1-u)}{2-u}\left(\frac{u}{2-u}\right)^{k-1}=2(1-u)\left(\frac{u}{2-u}\right)^k


まとめると、M/D/1の定常分布の近似式は

  • p(0)=1-u・・・・・(1)
  • k{\ge}1の時
    • p(k){\approx}2(1-u)\left(\frac{u}{2-u}\right)^k・・・・・(40)

となります。


M/D/1の定常状態分布の近似式の精度」に続きます。