Factory Operation Modelerを名乗るのであれば、工場運用に役立ちそうなモデルを少しでも提示しなければ、という思いはあるのですが、なかなかそこまで到達出来ていない私です。今日は、めったにないことですが、こんなの少し役に立ちませんか、というような話題です。
工場内の話です。装置はなるべくいつも稼動させたいので、装置のそばには次に処理すべきもの(ここでは「ジョブ」と呼ぶことにします)を準備しておき、今の処理が終ったらすぐに新しいジョブの処理を始める、というようなことを多くの工場でやられていると思います。そのために装置の近くにはジョブを置くための場所(「装置バッファ」と呼ぶことにします)があることになります。
しかし、前工程から流れてくるジョブの流れが変動するのである時にはジョブがその装置バッファに入りきらずに、装置からは少し離れているが、もっと大量に保管出来る棚(これを「保管バッファ」と呼ぶことにします)に一時的に持って行くことが発生する場合があるでしょう。この保管バッファに入ったジョブは、装置バッファが空いたらそちらに向かうことになります。こんな感じですね。
保管バッファに運ぶとなると、あとで装置バッファに運び直さなければならないので運搬回数が増えることになります。この余分な運搬回数を事前に見積ることは出来ないものでしょうか? あまり運搬回数が多いのであれば、装置バッファの容量(ジョブを保管出来る数の上限)を増やして運搬回数を減らすことが考えられます。装置バッファの容量をどれだけにすると余分な運搬回数はどれだけになるでしょうか?
ここで運搬時間のことを考えると、この問題は非常に難しくなります。ちょっと現実とは異なるかもしれませんが、話を簡単にするために運搬時間は考えないとします。上流工程からジョブがやってくるのはポアソン分布に従うとしましょう。装置は1台だけとします。すると、装置バッファと保管バッファを合わせて1つの大きな待ち行列と考えることが出来ます。(下図)
ジョブがやってきた時に、装置バッファにまだ余裕があれば、そのジョブは装置バッファに行きます。
装置バッファがいっぱいで、保管バッファが空でしたら、保管バッファに向かいます。
装置バッファがいっぱいで、保管バッファにもジョブがあるならば保管バッファに行き、その最後に並びます。
では、ジョブが保管バッファに行く確率はどれだけでしょうか?
その確率をで表すことにします。装置バッファの容量をで表します(装置も容量に含めるとします)。保管バッファの容量は極めて大きいとします(さもないと、保管バッファが溢れた時にどこに持っていくか、という話が出て来てややこしくなります)。図3、4、5から、これはジョブが到着した時に、待ち行列に個以上のジョブが存在している(到着したジョブは勘定にいれずにです)確率を求める問題になります。
この問題はすでに「M/G/1の定常状態累積分布の近似式」で解いていました。存在するジョブ数が個以下の確率は
- ・・・・・(1)
で近似出来るのでした。ここには装置の利用率は装置の処理時間の変動係数です。よって個以上のジョブが存在する確率、すなわちは
- ・・・・・(2)
で近似出来ることが分かります。ここで注意しなければいけないのは、には装置自身も含まれているということです。そこで装置自身を除いた保管バッファの数を改めてとおけば
- ・・・・・(3)
となります。
「保管バッファへ行く回数の推定(2)」に続きます。