D/M/1待ち行列の到着時刻状態分布(2)

D/M/1待ち行列の到着時刻状態分布(1)」の続きです。
D/M/1待ち行列の到着時刻状態分布p(k)を求めるために

  • p(k)=\Bigsum_{j=k}^{\infty}B(j-k)p(j-1)  ただしk{\ge}1・・・・・(8)
  • p(0)=\Bigsum_{j=0}^{\infty}C(j,0)p(j)・・・・・(9)
  • \Bigsum_{k=0}^{\infty}p(k)=1・・・・・(10)
  • C(j,0)=1-\Bigsum_{m=0}^jB(m)・・・・・(7)

を解く必要があります。
M/D/1の定常状態分布の求め方(1)」の時とは違ってPASTAを適用出来ませんので

  • p(0)=1-u

とすることも出来ません。到着時に装置が空いているかどうかは、時間平均での装置が空いている確率、すなわち1-uと等しいとは限らないからです。
さらに、「M/D/1の定常状態分布の求め方(1)」の時のように有限の項数の連立方程式でないので、「M/D/1の定常状態分布の求め方(1)」の時の解き方を応用することが出来ません。それで、しばらく解けなくて呆然としていましたが、

の「4.1 GI/M/1型マルコフ連鎖と行列幾何形式解」の以下の箇所を読んで解き方が分かりました。

4.1 GI/M/1型マルコフ連鎖と行列幾何形式解
 よく知られているように、M/M/1やGI/M/1待ち行列の定常分布は幾何分布となる。すなわち、到着直前のシステム内客数がnである定常状態確率\pi_nは、

  • \pi_n=(1-\eta)\eta_n、 n=0,1,・・・  (2)

で与えられる。\eta\in(0,1)は、到着間隔分布とサービス率から定まる定数で、M/M/1ではトラヒック密度に一致する。

本当なんだろうか? と思ってまず試しに

  • p(k+1)=bp(k)・・・・・(11)

と置くことが出来る、と仮定しました。ただしbは定数です。そしてさらに、k=1の時に(8)が成り立つと仮定しました。つまり

  • p(1)=\Bigsum_{j=1}^{\infty}B(j-1)p(j-1)・・・・・(12)

が成り立つと仮定しました。(12)の両辺にbを掛けると

  • p(2)=\Bigsum_{j=1}^{\infty}B(j-1)p(j)=\Bigsum_{j=2}^{\infty}B(j-2)p(j-1)

となりk=2の時にも(8)が成り立つことが分かります。さらに同様にしてk{\ge}3でも(8)が成り立つことが分かります。つまり(8)を満足するには(11)と(12)を満足させればよいことが分かります。では(10)を満足させるにはどうすればよいでしょうか?
(11)から

  • p(k)=p(0)b^k・・・・・(13)

となります。これを(10)に代入すると

  • \Bigsum_{k=0}^{\infty}p(0)b^k=1
  • \frac{p(0)}{1-b}=1
  • p(0)=1-b

これを(13)に代入して

  • p(k)=(1-b)b^k・・・・・(14)

これで(14)が(10)も満足することが分かりました。


では最後に(9)と(7)についてはどうでしょうか? しかし(9)の係数である(7)は、全確率の定理を用いて(6)から求めたのでした。ですので実は(8)と(10)を満足すれば(9)も自動的に満足されるのです。それを確かめてみます。(8)から

  • \Bigsum_{k=}^{\infty}p(k)=\Bigsum_{k=1}^{\infty}\Bigsum_{j=k}^{\infty}B(j-k)p(j-1)

よって全確率の定理から

  • p(0)=1-\Bigsum_{k=1}^{\infty}p(k)

この右辺に(8)を代入して

  • p(0)=1-\Bigsum_{k=1}^{\infty}\Bigsum_{j=k}^{\infty}B(j-k)p(j-1)

ここでj-1を固定して考えると、1{\le}k{\le}jだから0{\le}j-k{\le}j-1となります。また0{\le}j-1です。よってここでj-1=mj-k=nと置けば、0{\le}m0{\le}n{\le}mとなります。よって

  • p(0)=1-\Bigsum_{m=0}^{\infty}\Bigsum_{n=0}^mB(n)p(m)・・・・・(15)

もう一度全確率の定理

  • 1=\Bigsum_{m=0}^{\infty}p(m)

を(15)の右辺の1のところに代入すれば

  • p(0)=\Bigsum_{m=0}^{\infty}p(m)-\Bigsum_{m=0}^{\infty}\Bigsum_{n=0}^mB(n)p(m)

よって

  • p(0)=\Bigsum_{m=0}^{\infty}\left[1-\Bigsum_{n=0}^mB(n)\right]p(m)

この式と(7)から

  • p(0)=\Bigsum_{m=0}^{\infty}C(m,0)p(m)

となり、(9)が導かれます。


以上から、

  • p(1)=\Bigsum_{j=1}^{\infty}B(j-1)p(j-1)・・・・・(12)

  • p(k)=p(0)b^k・・・・・(13)

からbを求めれば、p(k)を求めることが出来ることが分かります。そこで(13)を(12)に代入すると

  • p(1)=\Bigsum_{j=1}^{\infty}B(j-1)b^{j-1}p(0)

ここで(11)を用いれば

  • bp(0)=\Bigsum_{j=1}^{\infty}B(j-1)b^{j-1}p(0)

よって

  • b=\Bigsum_{j=1}^{\infty}B(j-1)b^{j-1}
  • b=\Bigsum_{j=0}^{\infty}B(j)b^j

よって

  • \Bigsum_{j=0}^{\infty}\frac{1}{u^jj!}\exp\left(-\frac{1}{u}\right)b^j=b
  • \Bigsum_{j=0}^{\infty}\frac{b^j}{u^jj!}=b\exp\left(\frac{1}{u}\right)
  • \frac{1}{b}\Bigsum_{j=0}^{\infty}\frac{(b/u)^j}{j!}=\exp\left(\frac{1}{u}\right)
  • \frac{1}{b}\exp\left(\frac{b}{u}\right)=\exp\left(\frac{1}{u}\right)・・・・・(16)

bの値は(16)を解いて求めることになります。そうして求まったbを(14)に代入してp(k)を求めることが出来ます。


D/M/1待ち行列の到着時刻状態分布(3)」に続きます。