D/M/1における待ち時間の近似式

Kingmanの近似式の根拠が明らかになるか?(3)」で見たようにKingmanの近似式

  • CT_q{\approx}\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e・・・・・(1)

を導くためには2つの前提が必要でした。ひとつは、c_ac_eの両方が1より小さい場合にGI/G/1の待ち時間CT_q

  • CT_q{\approx}c_a^2c_e^2CT_{q,M/M/1}+c_a^2(1-c_e^2)CT_{q,M/D/1}+c_e^2(1-c_a^2)CT_{q,D/M/1}・・・・・(2)

で近似出来るということであり、もうひとつはCT_{q,D/M/1}

  • CT_{q,D/M/1}{\approx}\frac{1}{2}CT_{q,M/M/1}・・・・・(3)

で近似出来ることでした。ただし、ここでCT_{q,M/M/1}は同じ利用率uを持つM/M/1での平均待ち時間、CT_{q,M/D/1}はM/D/1での同じく平均待ち時間、CT_{q,D/M/1}はD/M/1での平均待ち時間、を表しています。そしてもちろん

  • CT_{q,M/M/1}=\frac{u}{1-u}t_e・・・・・(4)

ですから式(3)は

  • CT_{q,D/M/1}{\approx}\frac{u}{2(1-u)}t_e・・・・・(5)

と書き直すことが出来ます。


さて、上の式(2)は

によれば

アーラン分布を使ったいくつかの例で確かめられている[Page, E.S. (1972), Queueing Theory in OR.]

ということですから、おそらく数値計算による結果との比較で求められた式だと思います。これを確かめるのは大変そうですから、ここでは式(2)を認めることにします。
式(3)についてはどうでしょうか? 「D/M/1における待ち時間の式の導出」で待ち時間が求まりましたので、これと比較して近似が成り立つかどうか確かめることが出来ます。では、これを確かめてみましょう。
下のグラフに、D/M/1での待ち時間の厳密な値と(5)によって求めた近似値を比較します。厳密な値は「D/M/1」で近似値は「近似」で示されています。

これを見ると、まあまあの近似のように見えます。しかし、u<0.8ではもう少し正確さが欲しいようにも思います。参考のためにM/M/1での待ち時間もグラフに加えてみました。

これを見ると近似としてM/M/1の式

  • CT_q=\frac{u}{1-u}t_e

を用いるより式(5)を用いたほうがはるかによい近似になることが分かります。


ところで私はExcelをいじっている内に偶然に、もっとよい近似になる式を見つけました。それは

  • CT_q{\approx}\frac{u^2}{2(1-u)}t_e・・・・・(6)

というものです。これを「近似2」としてグラフに加えると

となります。式(5)よりもよい近似になっていることが分かると思います。私としてはD/M/1の平均待ち時間の近似式としては(6)を推奨したいと思います。もし式(6)を式(2)に代入すれば、GI/G/1の平均待ち時間の近似式としてKingmanの近似式(1)より精度のよい近似式が得られるはずです。これを求めてみましょう。

  • CT_q{\approx}c_a^2c_e^2CT_{q,M/M/1}+c_a^2(1-c_e^2)CT_{q,M/D/1}+c_e^2(1-c_a^2)CT_{q,D/M/1}
    • =c_a^2c_e^2\frac{u}{1-u}t_e+c_a^2(1-c_e^2)\frac{u}{2(1-u)}t_e+c_e^2(1-c_a^2)\frac{u^2}{2(1-u)}t_e
    • =\frac{u}{2(1-u)}t_e[2c_a^2c_e^2+c_a^2(1-c_e^2)+c_e^2(1-c_a^2)u]
    • =\frac{u}{2(1-u)}t_e[c_a^2c_e^2+c_a^2+c_e^2u-c_a^2c_e^2u]
    • =\frac{c_a^2+c_e^2u+c_a^2c_e^2(1-u)}{2}\frac{u}{(1-u)}t_e

よって

  • CT_q{\approx}\frac{c_a^2+c_e^2u+c_a^2c_e^2(1-u)}{2}\frac{u}{(1-u)}t_e・・・・・(7)

これがKingmanの近似式(1)より精度のよい近似式になるでしょう。(詳しくは「逆瀬川近似式の改良」参照)