Kingmanの近似式の導出メモ(1)

さて、「E2/M/1待ち行列の平均待ち時間とその近似式」において、GI/M/1の平均待ち時間の近似式として

  • CT_q{\approx}(1-c_a^2)CT_{q,D/M/1}(u,t_e)+c_a^2CT_{q,M/M/1}・・・・・(1)

が登場しました。この中のCT_{q,D/M/1}(u,t_e)については、「D/M/1における待ち時間の近似式」の式(5)に従って

  • CT_{q,D/M/1}(u,t_e){\approx}\frac{u}{2(1-u)}t_e・・・・・(2)

と近似することにします。そしてCT_{q,M/M/1}(u,t_e)については

  • CT_{q,M/M/1}(u,t_e)=\frac{u}{1-u}t_e・・・・・(3)

ですから、式(1)に(2)と(3)を代入して

  • CT_q{\approx}(1-c_a^2)\frac{u}{2(1-u)}t_e+c_a^2\frac{u}{1-u}t_e=\frac{(1-c_a^2)+2c_a^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e

つまり、GI/M/1の平均待ち時間の近似式として

  • CT_q{\approx}\frac{1+c_a^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e・・・・・(4)

を得ることが出来ます。
一方、「M/G/1における待ち時間の式の導出(1)」にありますように、M/G/1の平均待ち時間の式は(こちらは近似式ではありません)

  • CT_q=\frac{1+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e・・・・・(5)

です。(4)と(5)からGI/G/1のための待ち時間の近似式

  • CT_q{\approx}\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e・・・・・(6)

つまりKingmanの近似式、が成り立つことを主張したいところですが、これだけで式(6)を主張するのは、ちょっと飛躍ですね。
もう少し、式(6)を正当化する理由がないか探してみることにします。


平均待ち時間について今まで分かったことを下図にまとめました。

この図は横軸にc_e^2を縦軸にc_a^2をとっています。
M/M/1については平均待ち時間が分かっています。M/M/1とM/D/1を結ぶ直線、つまり上図の赤の横線、はM/G/1を表しますが、その平均待ち時間は式(5)で与えられることが分かっています。次に、M/M/1とD/M/1を結ぶ直線、つまり上図の青の縦線はGI/M/1を表しますが、その平均待ち時間は近似的に式(4)で表すことが出来ます。そして式(6)は式(4)と式(5)を自分の中に含んでいます。しかし、これら2本の直線以外の場所で本当に、近似的にも式(6)が成り立つのか、証拠がありません。そこで証拠を探してみます。


まず、E_2/E_2/1を検討してみます。E_2は2次のアーラン分布を表します。
まず、平均処理時間t_e/2のM/M/1待ち行列を考えます。この時の装置の利用率uとすると、ジョブの平均待ち時間CT_{q1}

  • CT_{q1}=\frac{u}{1-u}\frac{t_e}{2}・・・・・(7)

になります。この待ち行列に到着するジョブを1つおきに印をつけることにします。そうすると、印の付いたジョブの到着の間隔に注目すれば、これは指数分布の到着間隔を2つ足したものになりますから「アーラン分布」の「アーラン分布は指数分布の和」の箇所を参照すれば分かるように、この到着間隔は2次のアーラン分布E_2)になります。一方、印の付いたジョブとその直後の印の付いていないジョブの処理時間をひとまとめにして、その全体を印のついているジョブの処理時間と見なすと、これも同じ理由から2次のアーラン分布E_2)になり、その平均処理時間は

  • t_e/2{\times}2=t_e

になります。ただし、このような見方が崩れる場合があります。それは、印のついているジョブの処理時間とその直後にある、印のついていないジョブの処理時間が連続していない場合です。今は、このことを考慮しないでおきます。


すると、印のついたジョブに注目する限り、この待ち行列E_2/E_2/1待ち行列擬似的に考えることが出来ます。その時の印のついたジョブの平均待ち時間はどれだけでしょうか? これは最初に考えたM/M/1におけるジョブの平均待ち時間に等しいことになります。つまり式(7)で与えられることになります。そこで、(擬似的でない)本当のE_2/E_2/1における平均待ち時間をCT_qで表すと

  • CT_q{\approx}\frac{u}{1-u}\frac{t_e}{2}・・・・・(8)

という近似が成り立つと思われます。これを

  • CT_q{\approx}\frac{1/2+1/2}{2}\frac{u}{1-u}t_e・・・・・(9)

と書き直して、E_2/E_2/1においては

  • c_a^2=c_e^2=\frac{1}{2}・・・・・(10)

であることを考慮すれば、式(8)はKingmanの近似式を支持する一つの証拠になります。


しかし、上のように考えた擬似E_2/E_2/1は本物のE_2/E_2/1とは若干異なっているのでした。その点を、次にもう少し検討します。


Kingmanの近似式の導出メモ(2)」に続きます。