生産システムに関連して−待ち行列分野のオープンプロブレム 大野勝久氏

大野勝久氏(愛知工業大学経営情報科学部教授)の「生産システムに関連して−待ち行列分野のオープンプロブレム」を読みました。
以下はそこからの引用と私のつぶやきです。引用の中の「生産システム」という言葉は「工場」を指していると考えて下さい。また、「オープンプロブレム」とは「未解決問題」あるいは「課題」の意味です。

待ち行列分野のオープンプロブレム
3.生産システムに関連して 大野 勝久


 生産システムには、需要変動、設備故障、原材料・部品の供給地円、作業者の欠勤等々、様々な不確実性が不可避的に付きまとい、基礎理論としての単一工程生産システムの性能評価は、待ち行列理論の独壇場である。しかしながら、現実に直面する多くの問題は、複数の待ち行列がネットワーク状につながった、待ち行列ネットワークの問題である。そこでは、計算機・通信システムはともかく、生産システムにたいしては、「待ち行列理論がここに使われています」とは、なかなか言い難い現状である。実際、多品種・多工程からなる現実の生産システムの性能評価、最適化あるいは最適制御、どれをとってもその厳密な理論解析は、次世代というよりも、むしろ永遠のオープンプロブレムなのかもしれない。

そうなんですか。今、私が待ち行列理論を勉強しても、あまり役に立たないのでしょうか・・・。ちょっと不安になってきます。


 時の経つのは何とやらで、もう一昔前になってしまったが、「Buzacott and I.G. Shanthikumar, Stochastic Models of Manufacturing Systems, Prentice Hall NJ, 1993.」は、待ち行列理論を駆使して、単一工程、フローライン、トランスファライン、ジョブショップ、FMS(Flexible Manufacturing System)の性能評価と設計・制御問題を論じている。さらに10章では、受注生産ライン、有限バッファ生産ライン、共有バッファ生産ライン、MRP (Material Requirements Planning)、OPT、基点在庫 (base stock)方式、かんばん方式、CONWIP等々、従来個別に論じられてきた多くの生産システムを統一的に議論する基盤として、PAC (Production Authorization Cards)システムを提案している。

Buzacott(何て読むんでしょうね、ブザコット?)とShanthikumar(シャンティクマール。インド人の名前っぽいですね)の名前はよく聞きます。やはり「Stochastic Models of Manufacturing Systems」は買ったほうがよいかなあ。この本はGoogleで検索しても中身が読めないんで、内容が判断出来ないんです。


ここでOPT (Optimized Production Technology)は、ゴールドラット (Eliyahu M. Goldratt)博士によって1970年代後半から開発されてきた生産スケジューリングソフトであり、その発展系が、ボトルネック工程等の制約条件を改善して全体最適を図る手法として、一時期ブームとなった制約条件の理論 (Theory Of Constraints, TOC) である。

ゴールドラットは難しい数学を使わずに工場の賢い制御方針であるTOCを編み出しています。私は、彼が数学を使わないで議論していることに不満で「Factory Physics」を勉強するようになったのですが、上記のように待ち行列理論の応用にこれ以上期待出来ないのならば(待ち行列理論が工場運用に全然寄与しなかった、というのではなくFactory Physicsに詳述されているように、一定の寄与はなされているのですが)、ゴールドラットの思考法を身につけるほうが賢いやり方なのだろうかしら。私の肌に合わない思考法なのだが・・・・。


PACシステムは、単一品種N工程直列生産ラインにたいして、4種類のかんばん、すなわち、調達タグ (Requisition tag)、発注タグ (Order tag)、加工タグ (Process tag)、生産指示かんばん (Product Autorization card) を導入し、それらを適切に設定することで、上記生産システムを含む10種の生産方式を特別な場合として実現できることを示し、近似的な性能評価手法を与えている。しかし、生産方式の優劣を比較するためには、近似手法では不十分である。さらに、PACシステム後に提案された一般化かんばん方式を含むように、見直しを行うことも必要である。また、多品種に対する原材料・部品の供給から製造、物流、販売に至る関連企業が、企業の枠を越えて一体となり、調達製造物流・販売を通じて全体最適を目指すSCM (Supply Chain Management) へと時代が進展している現在、直列生産ラインをSCMネットワークに拡張することも必要である。このように拡張されたPACシステムにたいする厳密な性能評価手法の開発は、次世代ORのオープンプロブレムになるのではないであろうか? これにより、かんばん方式に代表されるプル方式とMRPに代表されるプッシュ方式との優劣比較という、シミュレーションを用いた多くの研究が既に行われているにもかかわらず、MRPが依然として大勢を占める問題に決着をつけることが期待される。さらに、これもシミュレーションを用いた多くの研究が既に行われている、プル方式間の比較についても、より説得力のある結論が期待される。

Factory Physicsではプルのほうがプッシュよりよい、と言っていますね。この問題は私には解決済のように思えます。「MRPが依然として大勢を占める」という認識は私にはありません。私が半導体生産しか知らないからかもしれません。半導体工場とMRPはなじまないと私は思っています。この著者は「拡張されたPACシステムにたいする厳密な性能評価手法の開発」が今後の(挑戦するに値する)課題だという意見ですね。しかし私は「PACシステム」について分かっていないので、一度「Stochastic Models of Manufacturing Systems」を読むべきなのかもしれません。いやいや、それより、まず自分自身の課題を明確にすべきですね。(ここで困ったことが出てきます。自分自身の課題はあまりに仕事に直結しているので、正直なところ、ここには書けないのです。)