拡散近似(1)

待ち行列における近似モデル 逆瀬川浩孝氏」と「拡散近似:その考え方と有用性 木村俊一氏」を読んで、何となく拡散近似が分かったような気がしたので、自分の理解したことを書いてみようと思います。


拡散近似で対象になっている待ち行列はGI/G/mです。
まずは「待ち行列における近似モデル」のほうから

待ち行列の長さが、1に比べて十分に大きく、空にならないような時間間隔[t,t+s)をとって考えると、その間の到着累計A(t+s)-A(t)、退去累計D(t+s)-D(t)は、近似的に正規分布にしたがっているものと期待できる。


A(t)は時刻0から時刻tまでの到着客(=ジョブ)数を、D(t)は時刻0から時刻tまでの出発(=退去)した客数を、表します。ですから、A(t+s)-A(t)は時間間隔[t,t+s)の間に到着した客数を、D(t+s)-D(t)は時間間隔[t,t+s)の間に出発した客数を表します。これらはもちろん確率的に変動する数、すなわち確率変数です。そして上の文章は、この2つが「近似的に正規分布に」従うと主張しています。なぜ、これらの確率変数は正規分布になるのでしょうか?


私の理解は次のようなものです。時刻tの直前の到着時刻をT_{a0}とします。その次の到着時刻をT_{a1}とします。そしてその次の到着時刻をT_{a2}とし、以下、同じようにT_{ak}を定義していきます。次にk番目の到着間隔t_{ak}

  • t_{ak}=T_{ak}-T_{ak-1}・・・・・(1)

で定義します。到着間隔t_{ak}は仮定によりGIなので、全て独立で同一の確率分布(正規分布とは限らない)に従うことになります。するとn番目の到着時刻T_{an}

  • T_{an}=T_{a0}+\Bigsum_{k=1}^nt_{ak}・・・・・(2)

と書くことが出来ますが、nの数が多くなるとこの\Bigsumの部分が正規分布になることが分かります。(独立で同一の確率分布に従う確率変数の合計は、合計する確率変数の個数が多いと正規分布に近づくから)。ここで、時刻sの時にA(t+s)-A(t)=xである確率をf(s,x)で表します。すると、nが大きな数であるとしてx=nとした時のf(s,n)nを固定すれば、sについて正規分布になります。この正規分布の平均と標準偏差を求めてみます。t_{ak}の平均値をt_a標準偏差\sigma_aとします。すると式(2)からT_{an}の平均はT_{a0}+nt_a標準偏差\sqrt{n}\sigma_aになります(「独立な確率変数の和の分散」参照)。よって

  • f(s,n){\approx}\phi\left(\frac{t+s-T_{a0}-nt_a}{\sqrt{n}\sigma_a}\right)・・・・・(3)

と書くことが出来ます。ここで\phi(\cdot)は標準正規分布関数を表します。では、f(s,x)sを固定した時の分布はどうなるでしょうか? これはf(s,x)の定義から、確率変数A(t+s)-A(t)の分布を表す関数になっていることが分かります。(3)から

  • f(s,n){\approx}\phi\left(\frac{nt_a-(t+s-T_{a0})}{\sqrt{n}\sigma_a}\right)
  • f(s,n){\approx}\phi\left(\frac{n-(t+s-T_{a0})/t_a}{\sqrt{n}\sigma_a/t_a}\right)
  • f(s,x){\approx}\phi\left(\frac{x-(t+s-T_{a0})/t_a}{\sqrt{x}\sigma_a/t_a}\right)・・・・・(4)

ここでx

  • \frac{t+s-T_{a0}}{t_a}

の近くだけを変化させるとすれば、式(4)の分母の\sqrt{x}

  • \sqrt{(t+s-T_{a0})/t_a}

で置き換えても、あまり値に変わりがないと考えられます。よって

  • f(s,x){\approx}\phi\left(\frac{x-(t+s-T_{a0})/t_a}{\sqrt{(t+s-T_{a0})/t_a}\sigma_a/t_a}\right)・・・・・(5)

よって、sを固定した時のxの分布は平均

  • \frac{t+s-T_{a0}}{t_a}

標準偏差

  • \sqrt{(t+s-T_{a0})/t_a}\sigma_a/t_a

正規分布で近似出来ることが分かります。よって、A(t+s)-A(t)は近似的に正規分布になることが分かります。ただし、私は上でnの数が大きいとしました。これはsが大きいことを意味します。上の引用ではsの大きさについては何も述べられていませんが、私はsが十分大きい、という条件が必要だと思います。ところで、定義によりt-T_{a0}t_a程度の大きさです。st_aに比べて十分大きいとします。すると、

  • t+s-T_{a0}{\approx}s

としても構わないことになります。よって近似的に正規分布になるA(t+s)-A(t)の分布の平均m_A標準偏差\sigma_Aはそれぞれ

  • m_A=\frac{s}{t_a}・・・・・(6)
  • \sigma_A=\sqrt{s/t_a}\sigma_a/t_a・・・・・(7)

となります。


拡散近似(2)」に続きます。