QNAによるライン・サイクルタイムの計算例(1)
QNA: The Queueing Network Analyzerの計算式によって、ラインのサイクルタイムを計算する実例をこれから示していきます。QNAによる計算はかなり複雑になりますので、ごく簡単な構成のラインを例に取り上げて、説明致します。それから少しずつ複雑さを増していこうと考えています。とはいってもちょっと複雑さが増しただけでかなり複雑な計算になると思います。
今日は、ラインに流れるジョブが1種類しかなく、よってラウティングも1種類のみと仮定します。ラインは下図のように3つのステーションからなり、ステーション1は1台の装置、ステーション2は3台の装置、ステーション3は2台の装置からなるとします。
装置1の処理時間の平均値を、標準偏差を、装置2の処理時間の平均値を、標準偏差を、装置3の処理時間の平均値を、標準偏差をとします。また、ジョブのステーション1への到着間隔の平均値を、標準偏差をとします。このジョブがこのラインを通過するのにかかる平均時間、すなわちサイクルタイムを以上のデータからQNAの計算方法を用いて計算していきます。
ラインのサイクルタイムは、各ステーションでのサイクルタイムの和です。さらに各ステーションでのサイクルタイムは各ステーションでの平均待ち時間、プラス、処理時間です。
ステーション1での平均待ち時間を、ステーション2での平均待ち時間を、ステーション3での平均待ち時間をとします。すると
- ・・・・・(1)
と表すことが出来ます。
QNAでは、GI/G/1待ち行列における平均待ち時間の計算式はQNA読解:5.1 GI/G/1待ち行列(2)の式(44)(45)を与えていますが、これは計算が少し大変なので、ここでは簡略化した式で説明します。基本的な考え方は両者で異なりません。ここではGI/G/1についてもG1/G/mについても同じ式
を用いることにします。さらにについては、計算を簡略にするためにKingmanの近似式とその拡張で紹介した逆瀬川の近似式
- ・・・・(3)
- ただし
- :利用率
を用いることにします。すると(2)は
- ・・・・・(4)
となります。ここで使用する式はこの式です。
さて、、、を求めるには、(4)から、、、を求めればよいことが分かります。これらを求めていきましょう。
まず利用率について求めます。ステーション1、2、3の利用率をそれぞれ、、で表せば、
- ・・・・・(5)
- ・・・・・(6)
- ・・・・・(7)
で求めることが出来ます。
次にについては、ステーション1,2,3のを、、で表せば、
- ・・・・・(8)
- ・・・・・(9)
- ・・・・・(10)
で求めることが出来ます。
次はです。これもステーション1,2,3のを、、で表すことにします。まず、明らかに
- ・・・・・(11)
次に
- ・・・・・(12)
ただし、はステーション1からの出発過程の変動係数です。ここでつなぎの式(「QNA読解:4.5 出発(1)」の式(39)参照)
- ・・・・・(13)
を用いて
- ・・・・・(14)
で求めることが出来ます。(12)、(14)から
- ・・・・・(15)
となり、この式でを求めることが出来ます。
最後には、つなぎの式(13)を用いて
- ・・・・・(16)
で求めることが出来ます。
については(11)(15)(16)で、については(8)(9)(10)で、については(5)(6)(7)で求めることが出来たので、これらの値を(4)に代入することで各ステーションのが得られ、最終的にサイクルタイムを得ることが出来ます。