拡散近似(2)

拡散近似(1)」の続きです。
D(t+s)-D(t)についても同様に考えます。ただし、このシステムの客(=ジョブ)数がゼロになれば、それ以上出発出来ませんから上にあるように時間間隔[t,t+s)の間、

待ち行列の長さが、1に比べて十分に大きく、空にならない

という条件が必要です。
前回、sは長い時間であるべきだ、と、述べました。またここでは、この時間間隔[t,t+s)の間、待ち行列が空にならない、という要請が出ました。とすると、長い時間、待ち行列が空でない状況が続かなければなりません。よってこれは利用率が1に近づいていなければなりません。拡散近似は利用率uu\rightar{1}の時に成り立つ近似です。


装置がm台あるとします。時間間隔[t,t+s)の間、待ち行列は空にならないので、装置はいつも稼動しています。装置j1{\le}j{\le}mについて時刻tの直前の処理終了時刻(これは次の処理の開始時刻でもあり、また客の出発時刻でもあります)をT_{d0}(j)とします。その次の処理終了時刻をT_{d1}(j)とします。そしてその次の処理終了時刻をT_{d2(j)}とし、以下、同じようにT_{dk}(j)を定義していきます。次に装置jk番目の処理時間をt_{ek}(j)で表すと

  • t_{ek}(j)=T_{dk}(j)-T_{dk-1}(j)・・・・・(8)

で表すことが出来ます。処理時間t_{ek}は、仮定より全て独立で同一の確率分布(正規分布とは限らない)に従うことになります。すると装置jn番目の処理終了時刻T_{dn}(j)

  • T_{dn}(j)=T_{d0}(j)+\Bigsum_{k=1}^nt_{ek}(j)・・・・・(9)

と書くことが出来ますが、nの数が多くなるとこの\Bigsumの部分が正規分布になることが分かります。


次に、時刻0から時刻tまでに装置jから出発した客の数の累計をD(t;j)で表すことにします。この定義から

  • D(t)=\Bigsum_{j=1}^mD(t;j)・・・・・(10)

となり、(10)から

  • D(t+s)-D(t)=\Bigsum_{j=1}^m[D(t+s;j)-D(t;j)]・・・・・(11)

も導くことが出来ます。
時刻sの時にD(t+s;j)-D(t;j)=xである確率をg(s,x;j)で表します。すると、nが大きな数であるとしてx=nとした時のg(s,n;j)nを固定すれば、sについて正規分布になります。この正規分布の平均と標準偏差を求めます。t_{ek}(j)の平均値は、jの値に依存せず(なぜなら、全ての装置は同一の処理時間分布に従うので)t_eです。一方t_{ek}標準偏差\sigma_eとします(これもjに依存しません)。すると式(9)からT_{en}(j)の平均はT_{d0}(k)+nt_e標準偏差\sqrt{n}\sigma_eになります。よって

  • g(s,n;j){\approx}\phi\left(\frac{t+s-T_{d0}(j)-nt_e}{\sqrt{n}\sigma_e}\right)・・・・・(12)

と書くことが出来ます。ここで\phi(\cdot)は標準正規分布関数を表します。ところでg(s,x;j)sを固定した時の分布はg(s,x;j)の定義から、確率変数D(t+s;j)-D(t;j)の分布を表す関数になっていることが分かります。(12)から

  • g(s,n;j){\approx}\phi\left(\frac{nt_e-(t+s-T_{d0}(j))}{\sqrt{n}\sigma_e}\right)
  • g(s,n;j){\approx}\phi\left(\frac{n-(t+s-T_{d0}(j))/t_e}{\sqrt{n}\sigma_e/t_e}\right)
  • g(s,x;j){\approx}\phi\left(\frac{x-(t+s-T_{d0}(j))/t_e}{\sqrt{x}\sigma_e/t_e}\right)・・・・・(13)

ここでx

  • \frac{t+s-T_{d0}(j)}{t_e}

の近くだけを変化させるとすれば、式(13)の分母の\sqrt(x)

  • \sqrt{(t+s-T_{d0}(j))/t_e}

で置き換えても、あまり値に変わりがないと考えられます。よって

  • g(s,x;j){\approx}\phi\left(\frac{x-(t+s-T_{d0}(j))/t_e}{\sqrt{(t+s-T_{d0}(j))/t_e}\sigma_e/t_e}\right)・・・・・(14)

よって、sを固定した時のxの分布は平均

  • \frac{t+s-T_{d0}(j)}{t_e}

標準偏差

  • \sqrt{(t+s-T_{d0}(j))/t_e}\sigma_e/t_e

正規分布で近似出来ることが分かります。ところで、定義によりt-T_{d0}(j)t_e程度の大きさです。st_aに比べて十分大きいのでt_eに比べても十分大きいことになります。すると、

  • t+s-T_{d0}(j){\approx}s

としても構わないことになります。よって近似的に正規分布になるD(t+s;j)-D(t;j)の分布の平均m_D(j)標準偏差\sigma_D(j)はそれぞれ

  • m_D(j)=\frac{s}{t_e}・・・・・(15)
  • \sigma_D(j)=\sqrt{s/t_e}\sigma_e/t_e・・・・・(16)

となります。(11)と(15)と(16)からD(t+s)-D(t)は近似的に正規分布になり、その平均m_D標準偏差\sigma_D

  • m_D=\frac{ms}{t_e}・・・・・(17)
  • \sigma_D=\sqrt{ms/t_e}\sigma_e/t_e・・・・・(18)

となります。


拡散近似(3)」に続きます。