QNAによるライン・サイクルタイムの計算例(3)

QNAによるライン・サイクルタイムの計算例(1)」の例を少し複雑にして下図のようなラインを考えます。

このラインを流れる品種は品種1、品種2の2種類で、品種1はステーション1→3、品種2はステーション2→3のラウティングを持つとします。品種1のラインへの到着時間間隔は平均t_a(1)標準偏差\sigma_a(1)とし、品種2のそれらは平均t_a(2)標準偏差\sigma_a(2)とします。ステーション1は装置1台からなり、ステーション2は3台、ステーション3は2台からなります。品種1に必要な処理時間は、ステーション1では平均t_e(1,1)標準偏差\sigma_e(1,1)、ステーション3では平均t_e(3,1)標準偏差\sigma_e(3,1)とします。品種2に必要な処理時間は、ステーション2では平均t_e(2,2)標準偏差\sigma_e(2,2)、ステーション3では平均t_e(3,2)標準偏差\sigma_e(3,2)とします。これらのデータから品種1と2のそれぞれのジョブのこのラインでのサイクルタイムCT(1)CT(2)を計算して行きます。


まずは各ステーション利用率uです。ステーション1、2については「QNAによるライン・サイクルタイムの計算例(1)」と同じに考えて

  • u(1)=\frac{t_e(1,1)}{t_a(1)}・・・・・(1)
  • u(2)=\frac{t_e(2,2)}{t_a(2)}・・・・・(2)

となります。
ステーション3については少し工夫が入ります。品種1、2の流量をそれぞれ\lambda_0(1)\lambda_0(2)で表すと、それらは平均到着時間間隔の逆数ですから

  • \lambda_0(1)=\frac{1}{t_a(1)}・・・・・(3)
  • \lambda_0(2)=\frac{1}{t_a(2)}・・・・・(4)

となります。この流量で重み付けしてt_e(3,1)t_e(3,2)の平均をとれば、ステーション3の平均処理時間を求めることが出来ます。これをt_e(3)で表すことにします。すると

  • t_e(3)=\frac{\lambda_0(1)t_e(3,1)+\lambda_0(2)t_e(3,2)}{\lambda_0(1)+\lambda_0(2)}・・・・・(5)

となります。ステーション3に到着する流量\lambda

  • \lambda=\lambda_0(1)+\lambda_0(2)・・・・・(6)

ですから、ステーション3への平均到着間隔t_aは、その逆数の

  • t_a=\frac{1}{\lambda_0(1)+\lambda_0(2)・・・・・(7)

よってu(3)

  • u(3)=\frac{t_e(3)}{t_a}=\frac{\lambda_0(1)t_e(3,1)+\lambda_0(2)t_e(3,2)}{\lambda_0(1)+\lambda_0(2)}(\lambda_0(1)+\lambda_0(2))
    • =\lambda_0(1)t_e(3,1)+\lambda_0(2)t_e(3,2)=\frac{t_e(3,1)}{t_a(1)}+\frac{t_e(3,2)}{t_a(2)}

よって

  • u(3)=\frac{t_e(3,1)}{t_a(1)}+\frac{t_e(3,2)}{t_a(2)}・・・・・(8)

です。


次に各ステーションでの処理時間の変動係数を求めます。ステーション1、2については「QNAによるライン・サイクルタイムの計算例(1)」と同じに考えて

  • c_e(1)=\frac{\sigma_e(1,1)}{t_e(1,1)}・・・・・(9)
  • c_e(2)=\frac{\sigma_e(2,2)}{t_e(2,2)}・・・・・(10)

ステーション3のばあいは、まずステーション3全体での標準偏差\sigma_e(3)を求める必要があります。ここで気をつけなければならないのは\sigma_e(3,1)\sigma_e(3,2)\lambda_0(1)\lambda_0(2)で加重平均しても\sigma_e(3)にはならない、ということです。加重平均が出来るのは平均値の性質を持つものです。ところで一般に確率変数Xの平均をE(X)で、標準偏差STD(X)で表すと

  • E(X^2)=E(X)^2+STD(X)^2・・・・・(11)

が成り立ちます。E(X^2)X^2の平均です。これを応用してステーション3での品種1のための処理時間だけの2乗平均E(B(3,1)^2)、品種2のための処理時間だけの2乗平均E(B(3,2)^2)を以下のように求めることが出来ます。

  • E(B(3,1)^2)=t_e(3,1)^2+\sigma_e(3,1)^2・・・・・(12)
  • E(B(3,2)^2)=t_e(3,2)^2+\sigma_e(3,2)^2・・・・・(13)

E(B(3,1)^2)E(B(3,2)^2)は平均値ですから、加重平均することでステーション3全体での処理時間の2乗平均E(B(3)^2)を計算することが出来ます。すなわち

  • E(B(3)^2)=\frac{\lambda_0(1)E(B(3,1)^2)+\lambda_0(2)E(B(3,2)^2)}{\lambda_0(1)+\lambda_0(2)}・・・・・(14)

こうして求めたE(B(3)^2)と、式(5)で求めたt_e(3)を用いて、式(11)を応用することで

  • \sigma_e(3)^2=E(B(3)^2)-t_e(3)^2

よって

  • \sigma_e(3)=\sqrt{E(B(3)^2)-t_e(3)^2}・・・・・(15)

を求めることが出来ます。\sigma_e(3)が求まったならば

  • c_e(3)=\frac{\sigma_e(3)}{t_e(3)}・・・・・(16)

でステーション3の処理時間の変動係数を求めることが出来ます。


QNAによるライン・サイクルタイムの計算例(4)」に続きます。