拡散近似(3)

拡散近似(2)」の続きです。
ここで時刻tでのシステム内の客数(=ジョブ数)をQ(t)で表すことにします。時刻t+sでのシステム内の客数はQ(t+s)で表されます。[t,s)の間のシステム内の客数の変化、つまりQ(t+s)-Q(t)は、到着累計数A(t+s)-A(t)と出発累計数D(t+s)-D(t)の差に等しくなります。つまり

  • Q(t+s)-Q(t)=\{A(t+s)-A(t)\}-\{D(t+s)-D(t)\}・・・・・(19)


さて、待ち行列が空でない限り、到着と出発は独立に起ります。[t,s)の間、待ち行列は空でないと仮定しているのでQ(t+s)-Q(t)正規分布に従う2つの独立な確率変数の差となるので、これも正規分布になります。2つの独立な確率変数の差の平均は、もともとの確率変数の平均の差であり、2つの独立な確率変数の差の標準偏差は、もともとの確率変数の標準偏差の2乗の和の平方根ですので、Q(t+s)-Q(t)の平均m_Q
拡散近似(1)」の式(6)

  • m_A=\frac{s}{t_a}・・・・・(6)

と「拡散近似(2)」の式(17)

  • m_D=\frac{ms}{t_e}・・・・・(17)

から

  • m_Q=m_A-m_D=\left(\frac{1}{t_a}-\frac{m}{t_e}\right)s

となります。ここで、

  • t_a=\frac{t_e}{mu}・・・・・(20)

であることを(u利用率です。)考慮すれば

  • m_Q=\left(\frac{mu}{t_e}-\frac{m}{t_e}\right)s=(u-1)\frac{m}{t_e}s

よって

  • m_Q=(u-1)\frac{m}{t_e}s・・・・・(21)

となります。
Q(t+s)-Q(t)の分散\sigma_Q^2
拡散近似(1)」の式(7)

  • \sigma_A=\sqrt{s/t_a}\sigma_a/t_a・・・・・(7)

と「拡散近似(2)」の式(18)

  • \sigma_D=\sqrt{ms/t_e}\sigma_e/t_e・・・・・(18)

から

  • \sigma_Q^2=\frac{s}{t_a}\frac{\sigma_a^2}{t_a^2}+\frac{ms}{t_e}\frac{\sigma_e^2}{t_e^2}

ここで、到着間隔の変動係数

  • c_a=\frac{\sigma_a}{t_a}

と、処理時間の変動係数

  • c_e=\frac{\sigma_e}{t_e}

を用いれば

  • \sigma_Q^2=\frac{s}{t_a}c_a^2-\frac{ms}{t_e}c_e^2=\left(\frac{c_a^2}{t_a}+\frac{mc_e^2}{t_e}\right)s

よって

  • \sigma_Q^2=\left(\frac{c_a^2}{t_a}+\frac{mc_e^2}{t_e}\right)s・・・・・(22)

となります。


ここで式(21)からm_Qは明らかに負です。つまりsが増加するにつれて、ということは時間が経過するにつれてQ(t+s)の平均値は直線的に下がり、どこかで0になるはずです。0になれば、そこからの出発の発生はあり得ません。ですから今までの前提が崩れるので、私にはこのことの扱いが気になります。しかし、拡散近似ではそこには注目していないようです。そこには注目しなくても近似が導ける理由を、あとで考えたいと思います。今は先に進みます。


さて、拡散近似では、式(21)の平均と式(22)の標準偏差を持つQ(t+s)-Q(t)ブラウン運動で近似しようとしています。では、ブラウン運動とは何か、今度はその説明が必要になります。ブラウン運動はランダム・ウォークの極限として導き出されます。


拡散近似(4)」に続きます。