拡散近似(4)

拡散近似(3)」の続きです。
時間tにおけるGI/G/1待ち行列のシステム内の客数Q(t)は時間の経過とともに、一般に確率的に変動します。たとえば下の図のようです。

  • 図1

拡散近似ではこの様子を、ブラウン運動で近似します。ブラウン運動というのはどの時刻でも不規則に値が変化する下の図のような過程です。

  • 図2

この2つには大きな違いがあります。Q(t)のほうは縦軸Q(t)が整数値しかとりません。これは客数ですからあたりまえです。ところがブラウン運動では縦軸xは実数値をとります。このような違いがあるもので近似するところが、拡散近似のどうもうさんくさいところだと私は思います。しかし、そのことの是非の検討についてはあとで行うことにして、ここでは先を急ぎます。


ブラウン運動の簡単な説明から致します。ブラウン運動ランダムウォークの極限として得られます。そこで最初はランダムウォークの簡単な説明から致します。


ランダムウォークは1回ごとに次にどちらに進むのかを確率的に決めるような過程です。ある人がX軸上を動くものとします。時刻0にはX軸の原点にその人はいるとします。ここで1回、コインを投げて、裏か表かでどちらに移動するかを決めます。裏ならば-a、表ならばaだけX軸上を動くとします。つまりそれぞれ1/2の確率で-aまたはaだけ移動するとします。動き終わったら、またコインを投げて同じように動く方向を決めます。これを繰り返していくと、この人は不規則に動くことになります。コインをk回目に投げた結果その人が動き終って今いる位置(X座標)をxで表し、kを横軸、xを縦軸にとったものが、ランダムウォークのグラフになります。たとえばa=1とした場合、下図のようになります。

  • 図3

k回目の移動後の位置をX(k)で表すことにします。すると、X(k)は確率変数になります。まずX(1)の平均と分散を求めてみましょう。平均E(X(1))は明らかに

  • E(X(1))=0・・・・・(23)

分散Var(X(1))

  • Var(X(1))=\frac{(a-0)^2+(-a-0)^2}{2}=a^2・・・・・(24)

となります。次にE(X(2))Var(X(2))を考えて見ます。これは

  • X(2)=X(1)+X(1)

と考えられるので、2つの独立で同一確率分布に従う確率変数の和ですから

  • E(X(2))=0・・・・・(25)
  • Var(X(2))=2a^2・・・・・(26)

となります。同様に考えてX(k)については

  • E(X(k))=0・・・・・(27)
  • Var(X(k))=ka^2・・・・・(28)

となります。(28)からX(k)標準偏差STD(X(k))

  • STD(X(k))=a\sqrt{k}・・・・・(29)

つまり、kが増えるにつれて標準偏差はどんどん大きくなります。


X(k)の値がxである確率をf(x,k)で表すことにします。今、X(k+1)=xであったとします。これはkの時にX(k)=x-aで1/2の確率でa進んだ場合とkの時にX(k)=x+aで1/2の確率で-a進んだ場合の両方の場合の結果として考えられます。よって

  • f(x,k+1)=f(x-a,k){\times}\frac{1}{2}+f(x+a,k){\times}\frac{1}{2}

つまり

  • f(x,k+1)=\frac{f(x-a,k)+f(x+a,k)}{2}・・・・・(30)

Excelにこの式を入れて、f(x,k)を実際に求めてみました。その一部を下に示します。

  • 図4

この表から、kが増えるにつれて標準偏差がどんどん大きくなる様子が分かります。(これは二項分布そのものです。)


拡散近似(5)」に続きます。