拡散近似(5)

拡散近似(4)」の続きです。

  • 図3

上図のようなランダムウォークのグラフの縦軸と横軸を縮小してブラウン運動のグラフを得ます。しかし、縦軸と横軸を同じスケールで縮小すると、ただのx=0のグラフになってしまいます。というのは式(29)

  • STD(X(k))=a\sqrt{k}・・・・・(29)

から

  • STD(X(100k))=10a\sqrt{k}=10STD(X(k))

となり、横軸を1/100に縮小しても、それは縦軸の1/10の縮小にしかならないからです。そこで、上のランダムウォークの縦軸を1/T倍にし、横軸を1/\sqrt{T}倍にします。すると下図

  • 図2

のようなブラウン運動のグラフを得ることが出来ます。このブラウン運動B(t)で表すことにします。こうして得られたブラウン運動B(t)はもちろん各時刻においての値が確率的に変動します。ですからB(t)の値がxである確率密度p(x,t)を考えることが出来ます。今度はこれを求めます。これを求めるためにもう一度「拡散近似(4)」で考えたランダムウォークX(k)に戻ります。


X(k)の値がxである確率をf(x,k)で表すことにします。今、X(k+1)=xであったとします。これはkの時にX(k)=x-aで1/2の確率でa進んだ場合とkの時にX(k)=x+aで1/2の確率で-a進んだ場合の両方の場合の結果として考えられます。よって

  • f(x,k+1)=f(x-a,k){\times}\frac{1}{2}+f(x+a,k){\times}\frac{1}{2}

つまり

  • f(x,k+1)=\frac{f(x-a,k)+f(x+a,k)}{2}・・・・・(30)

となります。ここから

  • 2f(x,k+1)=f(x-a,k)+f(x+a,k)
  • 2\{f(x,k+1)-f(x,k)\}=f(x-a,k)+f(x+a,k)-2f(x,k)
  • 2\{f(x,k+1)-f(x,k)\}=\{f(x+a,k)-f(x,k)\}-\{f(x,k)-f(x-a,k)\}
  • f(x,k+1)-f(x,k)=\frac{1}{2}[\{f(x+a,k)-f(x,k)\}-\{f(x,k)-f(x-a,k)\}]・・・・・(31)

ここで回数kの代わりに時刻tを導入します。

  • t=\frac{k}{T}・・・・・(32)
  • y=\frac{x}{\sqrt{T}・・・・・(33)

とおいて、あとでT\rightar{\infty}にすることでブラウン運動の式を導き出します。


まず(31)に(32)(33)を代入して

  • f(\sqrt{T}y,Tt+1)-f(\sqrt{T}y,Tt)
    • =\frac{1}{2}[\{f(\sqrt{T}y+a,Tt)-f(\sqrt{T}y,Tt)\}-\{f(\sqrt{T}y,Tt)-f(\sqrt{T}y-a,Tt)\}]・・・・・(34)

ここで

  • p(y,t)=f(\sqrt{T}y,Tt)・・・・・(35)

とおけば、式(34)は

  • p\left(y,t+\frac{1}{T}\right)-p(y,t)=\frac{1}{2}\left[\{p\left(y+\frac{a}{\sqrt{T}},t\right)-p(y,t)\}-\{p(y,t)-p\left(y-\frac{a}{\sqrt{T}},t\right)\}\right]・・・・・(36)

ここでさらに、

  • \frac{1}{T}=\Delta{t}・・・・・(37)
  • \frac{a}{\sqrt{T}}=\Delta{y}・・・・・(38)

とおけば

  • p(y,t+\Delta{t})-p(y,t)=\frac{1}{2}[\{p(y+\Delta{y},t)-p(y,t)\}-\{p(y,t)-p(y-\Delta{y},t)\}]

よって

  • \frac{p(y,t+\Delta{t})-p(y,t)}{\Delta{t}}=\frac{\Delta{y}^2}{2\Delta{t}}\frac{\frac{p(y+\Delta{y},t)-p(y,t)}{\Delta{y}}-\frac{p(y,t)-p(y-\Delta{y},t)}{\Delta{y}}}{\Delta{y}}・・・・・・(39)

ここでT\rightar{\infty}とすると

  • \frac{p(y,t+\Delta{t})-p(y,t)}{\Delta{t}}{\rightar}\frac{{\partial}p(y,t)}{{\partial}t}
  • \frac{\frac{p(y+\Delta{y},t)-p(y,t)}{\Delta{y}}-\frac{p(y,t)-p(y-\Delta{y},t)}{\Delta{y}}}{\Delta{y}}{\rightar}\frac{{\partial}^2p(y,t)}{{\partial}y^2}

さらに、(37)と(38)から

  • \frac{\Delta{y}^2}{2\Delta{t}}=\frac{a^2}{T}\frac{T}{2}=\frac{a^2}{2}

なので式(39)から

  • \frac{{\partial}p(y,t)}{{\partial}t}=\frac{a^2}{2}\frac{{\partial}^2p(y,t)}{{\partial}y^2}

となります。この式の変数yxで書き換えれば

  • \frac{{\partial}p(x,t)}{{\partial}t}=\frac{a^2}{2}\frac{{\partial}^2p(x,t)}{{\partial}x^2}・・・・・(40)


式(40)の解は

  • p(x,t)=\frac{1}{a\sqrt{2{\pi}t}}\exp\left(-\frac{(x-x_0)^2}{2a^2t}\right)・・・・・(41)

になります(ただしx_0積分定数)。これは平均x_0標準偏差a\sqrt{t}正規分布の式です。つまり「拡散近似(4)」で登場した二項分布が極限において正規分布になった訳です。


式(41)が(40)の解であることは、(41)を代入することで確かめることが出来ます。まず(40)の左辺は

  • \frac{{\partial}p(x,t)}{{\partial}t}=-\frac{1}{2}\frac{1}{a\sqrt{2{\pi}t}}\frac{1}{t}\exp\left(-\frac{(x-x_0)^2}{2a^2t}\right)+\frac{1}{a\sqrt{2{\pi}t}}\left(\frac{(x-x_0)^2}{2a^2t^2}\right)\exp\left(-\frac{(x-x_0)^2}{2a^2t}\right)
    • =-\frac{1}{2t}p(x,t)+\frac{(x-x_0)^2}{2a^2t^2}p(x,t)=\frac{(x-x_0)^2-a^2t}{2a^2t^2}p(x,t)

次に(40)の右辺を求めるためにまず

  • \frac{{\partial}p(x,t)}{{\partial}x}=-\frac{(x-x_0)}{a^2t}\frac{1}{a\sqrt{2{\pi}t}}\exp\left(-\frac{(x-x_0)^2}{2a^2t}\right)= -\frac{(x-x_0)}{a^2t}p(x,t)

これをさらにx微分して

  • \frac{{\partial}^2p(x,t)}{{\partial}x^2}=-\frac{1}{a^2t}p(x,t)+\frac{(x-x_0)^2}{a^4t^2}p(x,t)=\frac{(x-x_0)^2-a^2t}{a^4t^2}p(x,t)

よって、(40)が成り立つことが分かります。


拡散近似(6)」に続きます。