「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(2)

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まず、第3章の全体構成を調べてみました。数式からではなく、説明文から推測するに、第3章は以下のような構成になっていることが分かりました。カッコ内の数字はページ番号です。

  • 通信を時系列として見ること(p.74)
  • 情報量の定義(p.75〜82)
  • 統計的平衡状態にある時系列(p.82〜84)
  • 予測と濾波の理論の概要(p.84〜85)
  • ウィーナー過程(p.85〜88)
  • ウィーナー積分(p.89〜90)
  • 式(3.34)の形の時系列の、エルゴード定理に関係した理論(p.91〜93)
  • 式(3.46)の形の時系列(p.93〜98)
  • 式(3.34)の形の時系列の予測問題(p.98〜102)
  • 式(3.34)の形の時系列の濾波の問題(p.102〜105)
  • 情報の伝送速度(p.105〜107)
  • 多重時系列(p.107〜108)
  • 離散的時系列の予測、濾波、情報の伝送速度(p.108〜112)
  • 量子力学の検討(p.112〜114)


大まかに言えば、ここでは情報量の定義の話と、時系列の予測と濾波の話が中心です。ところでウィーナーは第2章の最後で

 次の章では、時系列の統計力学を論ずる。この分野では熱機関の統計力学の場合とはひじょうに事情がちがっており、生体内におこっていることの模型としてかなり役立つものなのである。

と書いています。では第3章の記述で生物と関係のある記述はあるだろうか、と調べてみたところ、p.107で、ある式について「これは個々の人の聴力量と聴力損失量を測定するのに使う聴力損失図(audiogram)と密接な関係をもっている。」と説明している記述と、第3章の最後のページで、遺伝子とウィルスの増殖について述べた記述の2箇所だけでした。
しかも後者の内容は第3章のそれ以外の部分と比較的独立であるので、時系列の理論が生理学に寄与することを直接述べた個所は1箇所のみになっています。これでは時系列の理論の生理学的な意味が分かりません。この点が私には不満です。
第3章で目立つのは、むしろ電子工学との関連です。上に登場する予測の理論は、序章で登場した、第二次世界大戦中の高射砲の制御に関連する理論です。また、濾波(ろは)というのは雑音の混じった通信信号から、雑音を除去することで、この濾波の理論は通信工学と関連しています。



さて時系列とは何でしょうか? 時間とともに不規則に変化するものが時系列です。端的に言えば下のグラフ

のようなものが時系列です。何か株価のグラフみたいですね。株価の変動も時系列の例の1つです。ウィーナーは、電話にしろラジオにしろレーダーにしろ、通信信号は時系列である、と言っています。時系列の本質的な特徴は、不規則に変化する、ということではなく、変化が確率的に決まる、ということです。そして通信もまた、変化が確率的に決まる(予め決定されていない)ものである、とウィーナーは考えています。その理由は序章に書かれています。

情報を送るということは、二つのことがら(yesかno)のなかのどちらか一つを送るということによって成り立つ。伝達すべきことが一つだけしかないならば、通報を送るまでもない。通報を全く送らないのが最も能率よく、最も簡単に、そのことを伝達する方法になる。電信や電話は、それらの伝達する通報が、過去によって完全には決定されない変化をたえず行っているときに、その機能をよく果たしているのであって、これらの通報の変化が一種の統計的規則性をもつときに、はじめて効果ある設計をすることができる。


こうして通信を、ある確率的な規則性をもった時系列と捉えるのがウィーナーの視点です。



「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(3)」に続きます。