短寿命市場時代の工場運営

ザ・ゴールにおけるスループット」「ザ・ゴールにおける在庫と経費」で考えたことの続きです。


現代では多くの製品の寿命が短い。製品そのものがすぐ故障してしまう、という意味ではなくて、その製品が売れる期間が短い、という意味で寿命が短い。そのことを短寿命市場時代という言葉で表わしてみた。また、顧客の要求が多様化していて、多品種を提供していく必要がある。それにその多品種のうち、どれがブームになるかがなかなか予想がつかない。このような場合、工場運営はいかにあるべきか? その論理を鍛えたいと思う。


さっと思いつくことは短納期、(別の言葉で言えば)短サイクルタイムによって市場動向によく追従していくべきである、ということだ。


ザ・ゴールで言っていた3つの指標、すなわちお金としてのスループット、在庫、経費については変更の必要があるだろうか?
ザ・ゴールにおけるスループットの定義は、単位時間あたりに販売によって得るお金の量であった。

この定義におけるスループットが高ければ高いほうがよい、という命題は正しい。ただ、ザ・ゴールの場合と異なるのは市場環境だ。ザ・ゴールの場合は、市場がボトルネックではない場合を考えていた。よって、工場の目標はスループットを高めること、が結論された。しかし、現代、一般的なのは市場がボトルネックの場合である。それは最初に述べたような多品種多変動短寿命の市場である。この場合は市場というか販売のところに注目しなければならないだろう。すなわち、売れ筋製品をすばやく見い出し、その製品の生産量を急速に高めて、ブームが続いている間に、売り切ってしまう。そしてそのブームが過ぎたこと、次の売れ筋が何であるかということ、をすばやく見い出し、工場で生産する製品をすばやく切り替えていく・・・・。このためには、工場での生産のサイクルタイムを短縮することがキーになってくるだろう。サイクルタイム短縮の重要性をアピールするような数学的モデルを作ることは出来ないだろうか?


それともう一つ、別の数学的モデルも必要な気がする。売れ筋が何かの予測が難しいならば、おそらく売れ筋になる可能性のある製品を同時に店舗に並べて、どれが売れるか調べる必要があるだろう。1種類の製品を生産しているよりも多品種を少量同時に生産しているほうが有利である、ということをアピールするモデルも考えてみたほうがよいだろう。もし、そのモデルが説得力のあるモデルであれば、多品種少量生産が必然であることも納得出来るであろう。


例えば、10種類の製品のうちどれか1つだけが売れるのであるが、それがどれであるかが前もって分からない、という状況を考えてみよう。これらの製品は生産を開始してから店舗に並ぶまでに1ヶ月かかるとしよう。そして売れ筋製品は1年間だけ売れるとしよう。工場のキャパシティは、どの製品についても10A個/月であるとしよう。ここでAは定数である。


もし最初の1ヶ月、工場が10種類の製品を作っていたとすると、それぞれの製品はA個/月ずつ供給されることになる。販売の最初の1日でこの中の1種類だけが売れると判明したとしよう。工場はすぐさま売れ筋の製品だけを製造しようとするが、今まで作りかけの製品もあるので1ヶ月経たないと売れ筋製品の店舗への供給流量が10A個/月にならない。

  • (本当は、作りかけの、売れ筋ではない9個の製品を、生産の途中ですべて廃棄してしまえば、工場のWIPが減少するのでサイクルタイムがぐっと短縮されるはずだが、それを考慮すると話がややこしくなるので、ここでは考慮しない。)

だから最初の1ヶ月のうちに売れるのはA個であり、残りの11ヶ月は10A個売れる。よってこの1年間に売れる売れ筋製品の数はA×1+10A×11=111A個である。


上記は多品種の方針を採った場合である。今度は1品種の方針を採った場合を考える。


最初の1ヶ月、工場は1種類の製品しか作らないとする。この時、この製品の店舗への供給流量は10A個/月である。1ヵ月後その製品が店舗に届き、即日、その製品が売れるかどうかが判明したとする。この製品が売れ筋製品である確率は、前提条件から1/10である。もし売れ筋製品だったら、12ヶ月間この製品は売れるので、総販売個数は10A個×12=120A個である。しかし、このようになる確率は1/10である。


では逆にこれが売れ筋製品でないことが判明する確率は9/10である。その時に残りの9種類のうちの1つを選んで生産を開始すると、これが店舗に届くのは1ヵ月後になる。そして、それが売れ筋製品であると判明するのは、1/9の確率であり、そうではないと判明するのは8/9の確率である。売れ筋製品であった場合には11ヶ月の間この製品は売れるので、総販売個数は10A個×11=110A個である。そして、このようになる確率は9/10×1/9=1/10である。


この2つ目の製品も売り筋製品でない場合は、また、その1ヶ月後に別の製品が店舗に届く。今度は1/8の確率で売れ筋製品であり、その場合の販売期間は10ヶ月になる。よって、総販売個数は10A個×10=100A個である。そして、このようになる確率は9/10×8/9×1/8=1/10である。


以下同様に考えていけば、90A個売れる確率が1/10、80A個売れる確率が1/10・・・・30A個売れる確率が1/10である。最後が30A個になるのは、製品の種類が10種類しかないからである。よって、平均総販売個数は(120A+110A+100A+90A+80A+70A+60A+50A+40A+30A)×1/10=75A個、となる。


総販売個数は多品種の方針を採った場合が111A個、1品種の方針を採った場合が75A個になるので、この例の場合は多品種の方針を採ったほうがよいことが分かる。・・・・・・・


多品種方針と1品種方針(1)」「短寿命市場環境と短サイクルタイム」に続きます。