「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(7)

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さてここで話が少し変わって、ウィーナーが若い頃から研究してきたブラウン運動、実際には理想化された、無限小の時間に変動するブラウン運動、すなわちウィーナー過程という時系列についての紹介が始まります。ウィーナー過程はランダムウォークの極限として得られます。そこで最初にランダムウォークの簡単な説明をします。


ランダムウォークは1回ごとに次にどちらに進むのかを確率的に決めるような過程です。ある人がX軸上を動くものとします。時刻0にはX軸の原点にその人はいるとします。ここで1回、コインを投げて、裏か表かでどちらに移動するかを決めます。裏ならば-a、表ならばaだけX軸上を動くとします。つまりそれぞれ1/2の確率で-aまたはaだけ移動するとします。動き終わったら、またコインを投げて同じように動く方向を決めます。これを繰り返していくと、この人は不規則に動くことになります。コインをk回目に投げた結果その人が動き終って今いる位置(X座標)をxで表し、kを横軸、xを縦軸にとったものが、ランダムウォークのグラフになります。たとえばa=1とした場合、下図のようになります。

  • 図1

k回目の移動後の位置をX(k)で表すことにします。すると、X(k)は確率変数になります。まずX(1)の平均と分散を求めてみましょう。平均E(X(1))は明らかに

  • E(X(1))=0・・・・・(7)

分散Var(X(1))

  • Var(X(1))=\frac{(a-0)^2+(-a-0)^2}{2}=a^2・・・・・(8)

となります。次にE(X(2))Var(X(2))を考えて見ます。これは

  • X(2)=X(1)+X(1)

と考えられるので、2つの独立で同一確率分布に従う確率変数の和ですから

  • E(X(2))=0・・・・・(9)
  • Var(X(2))=2a^2・・・・・(10)

となります。同様に考えてX(k)については

  • E(X(k))=0・・・・・(11)
  • Var(X(k))=ka^2・・・・・(12)

となります。(12)からX(k)標準偏差STD(X(k))

  • STD(X(k))=a\sqrt{k}・・・・・(13)

つまり、kが増えるにつれて標準偏差はどんどん大きくなります。


X(k)の値がxである確率をf(x,k)で表すことにします。今、X(k+1)=xであったとします。これはkの時にX(k)=x-aで1/2の確率でa進んだ場合とkの時にX(k)=x+aで1/2の確率で-a進んだ場合の両方の場合の結果として考えられます。よって

  • f(x,k+1)=f(x-a,k){\times}\frac{1}{2}+f(x+a,k){\times}\frac{1}{2}

つまり

  • f(x,k+1)=\frac{f(x-a,k)+f(x+a,k)}{2}・・・・・(14)

Excelにこの式を入れて、f(x,k)のを実際に求めてみました。その一部を下に示します。

  • 図2

この表から、kが増えるにつれて標準偏差がどんどん大きくなる様子が分かります。(これは二項分布そのものです。)
ウィーナー過程は図1のようなランダムウォークのグラフの縦軸と横軸を縮小して得られます。しかし、縦軸と横軸を同じスケールで縮小すると、ただのx=0のグラフになってしまいます。というのは式(13)から

  • STD(X(100k))=10a\sqrt{k}=10STD(X(k))

となり、横軸を1/100に縮小しても、それは縦軸の1/10の縮小にしかならないからです。そこで、上のランダムウォークの縦軸を1/T倍にし、横軸を1/\sqrt{T}倍にします。すると下図

  • 図3

のようなウィーナー過程のグラフを得ることが出来ます。
このようにウィーナー過程はランダムウォークの極限として得られますので、無限小の時間経過においても不規則に変動することが直感的に分かることと思います。


「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(8)」に続きます。