「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(8)

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第3章 時系列、情報および通信(7)」で導出したウィーナー過程はt{\ge}0の範囲で定義されたものでした。これを(-\infty,\infty)の範囲で定義された関数に拡張します。拡張の仕方については説明が細かくなりますのでここでは省略致します。こうして得られたウィーナー過程の関数を

  • \xi(t,\gamma)

で表わします。ここに\gammaは「第3章 時系列、情報および通信(5)」と同じように1つの確率事象を表わすパラメータです。\gamma(0,1)に一様に分布しておりその中から確率的に選ばれ、観測者には\gammaの値は分かりません。
このウィーナー過程を元にして作った、あるエルゴード的な時系列の集合についてウィーナーは予測と濾波の理論を展開しています。それでどのような時系列をウィーナーが考えたかと言いますと

  • f(t,\gamma)=\Bigint_{-\infty}^{\infty}K(t+\tau)d\xi(\tau,\gamma)・・・・・(15)

という時系列です。ただしK(t)t\rightar\pm\inftyの時に充分早く0に近づき、かつ、充分滑らかな任意の関数とします。この時系列の意味を探ってみましょう。


ここで一旦離散的な時系列を考え、それをあとで極限をとって連続的にすることを考えます。
コイン投げを元にして離散的な時系列を考えてみます。まずコインを投げて表が出たら+1、裏が出たら−1を意味するとします。i番目に投げたコインの結果を\Delta_iとします。ここからなるべく一般的な、そしてエルゴード的な(離散的)時系列を作成するには、iの任意の関数K(i)を用いて

  • a(j)=\Bigsum_{i=0}^{\infty}K(i+j)\Delta_i・・・・・・(16)

とすればよいでしょう。この時系列a(j)エルゴード的になります。というのは、その元になったコイン投げがエルゴード的だからです。

上図のX軸の数字がiを示し、その下の白丸あるいは黒丸が\Delta_iを示します。白丸の場合は+1を黒丸の場合は−1を示します。また棒グラフはK(i)-K(i)を示しています。棒グラフで青く塗った部分がK(i)\Delta_iを示します。つまり\Delta_iが白丸(+1)であればプラスの、黒丸(−1)であればマイナスの値を採用します。この青く塗った値の合計が

  • \Bigsum_{i=0}^{\infty}K(i)\Delta_i

になります。ただし、K(i)i\rightar{\pm}{\infty}で急速に0に収束するとします。

  • a(j)=\Bigsum_{i=0}^{\infty}K(i+j)\Delta_i

は、上図の棒グラフがjの値によって左右に移動すると考えればイメージをつかめると思います。


式(15)におけるd\xi(t,\gamma)は、このコイン投げ1回の結果、と考えることが出来ます。それは「第3章 時系列、情報および通信(7)」でのウィーナー過程の導出から分かるように多数のコイン投げの結果の極限がウィーナー過程だからです。そうすると式(15)は式(16)のidtに置き換え、\Delta_id\xi=\xi(t+dt)-\xi(t)に置き換え、\Bigsum\Bigintで置き換えたものと考えることが出来ます。

(白丸、黒丸の個数は無限になるので図に書けなくなりました。) このように考えるとf(t, \gamma)エルゴード的であることは明らかです。


「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(9)」に続きます。