「サイバネティックス」という本の「第3章 時系列、情報および通信」(まとめ)

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 第3章の論旨をまとめてみます。

  • 第2章の最後で「次の章では、時系列の統計力学を論ずる。この分野では熱機関の統計力学の場合とはひじょうに事情がちがっており、生体内におこっていることの模型としてかなり役立つものなのである。」と書かれたように第3章では時系列理論を論じた。正確にはウィーナー過程から派生した時系列の理論であり、その理論は第2章で論じたエルゴード理論を基礎としている。
  • その成果として予測と濾波の理論が示された。これらは通信理論の一部と考えられる。「サイバネティックス」という本の副題は「動物と機械における制御と通信」であるが、この章はその中の「通信」について論じた章と言える。
  • 通信の本質は今まで知られていなかったことを知らせる、ということから通信波形の過去の形から未来を正確に予測することは出来ない、ということ、つまり、確率的に変化する波形である、ということが本質であることが明らかになった。ここから情報量の定義が導かれた。これは本質的にシャノンの情報理論の中で論じられたことと同等であるが、シャノンがデジタル信号を扱い、そのために直感的に分かり易い理論であるのに対して、ウィーナーはアナログ信号を扱い、理解が難しい理論を展開している。また、アナログ信号による情報伝達速度を求める式を導き出している。
  • 「動物と機械における制御と通信」という副題の言葉のうち、「制御」については「第4章 フィードバックと振動」で論じられる。
  • 最後に生体内における物質の共鳴状態の重要性と、それが遺伝子の増殖に関わっている可能性の指摘がなされる。
    • しかし、これが時系列理論とどのような関連があるのかを私は読み取ることが出来ませんでした。



次に疑問点をまとめます。

  • 第2章の最後では時系列理論を「生体内におこっていることの模型としてかなり役立つものなのである」と述べているが、第3章で述べられた予測と濾波の理論が生体内におこっていることを記述するモデルとしてどう役に立つのか不明である。例えばある動物が獲物を捕獲する際にその獲物の未来の位置を予測して捕獲しているのだとしても、その予測の方法がこの章で述べられた予測理論に従っている、あるいは類似している、とはとても思えない。
  • 共鳴状態に関する最後のほうの議論は生体内での遺伝子の増殖を扱っているようであるが、これと時系列理論との関係が分からない。
    • あるいは、これは1961年に追加された「第9章 学習する機械、増殖する機械」「第10章 脳波と自己組織系」で詳しく述べられているのかもしれない。
      • しかし私はいまだにこの2つの章の内容がよく分からないのです。


今、ふと思ったのですが、サイバネティックスは第5章から第8章までを除いたら、もう少し一貫した流れ、すなわち、生命現象のモデルとして適用可能な時系列の統計力学の建設、という流れが見えるのではないでしょうか?

  • 第1章 ニュートンの時間とベルグソンの時間
    • 非可逆的な時間について
  • 第2章 群と統計力学
    • エルゴード理論について
  • 第3章 時系列、情報および通信
    • 時系列理論の基礎について
  • 第4章 フィードバックと振動
  • 第9章 学習する機械、増殖する機械
    • フィードバックとしての学習について。学習としての増殖、進化について
  • 第10章 脳波と自己組織系
    • 自己組織化について