閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(1)

プル生産システムのモデル化を目指して(3)」の続きです。


ひらめきは突然やってくる。突然やってくるようにみえてしまう。
やってくるとその考えが頭を占めてしまい、その考えに至った道筋を忘れてしまう。それで突然やってくるようにみえてしまう。昨夜のひらめきに至るまでの過程を忘れないうちに記録しておこう。まだ、このひらめきが本当に有効なのかどうかは分からない。それは今後の検討に待つしかない。


プル生産システムのモデル化を目指して(3)」で開放型待ち行列ネットワークの各ステーション待ち行列理論の用語で言えばノード)へのジョブの到着過程がポアソン過程であることが保障されない、という結論になったので、考えの出発点を

ではなく

まで戻すことにした。しかしじきに、ジョブがシステムを出入りするのを考慮するのが面倒になって下の図のような閉鎖型ネットワークを考えた。

  • 図2

そしてこのネットワークシステムに対応するように頭の中で図1を書き換えた。

  • 図3

しかしこれはネットワーク内にジョブが1個だけ存在する場合だ。ジョブが2個、存在する場合はどうなるだろう? その場合の図はこのように書ける。

  • 図4

そしておそらく赤の矢印の範囲で、そして黄緑の矢印の範囲で平衡がとれているだろう、と思った。(今、思えば、これは明らかに平衡になっている。) この図で、装置1(=ステーション1)にジョブが到着した瞬間はどのように表されているだろう?

  • 図5

それは図5で黒矢印で示したところだ。もし到着定理が成立するならば、ジョブがステーション1に到着した時点でステーション1が空いている確率、もう1つのジョブでふさがっている確率は、「ジョブが1個(=2−1)の時のこのネットワークの定常状態での確率に従う」はずだ。具体的には1個だけなのでジョブは待ち時間を持たず、常にステーション1か2のいずれかで処理中になる。よって各ステーションにジョブが存在する確率はそのステーションの平均処理時間に比例する。よって、ステーション1にジョブが存在する確率は

  • \frac{t_{e1}}{t_{e1}+t_{e2}}・・・・・(1)

となり、存在しない確率(=ステーション2にジョブが存在する確率)は

  • \frac{t_{e2}}{t_{e1}+t_{e2}}・・・・・(2)

となる。


それでは、それが図5から言えるだろうか? 黒矢印の遷移が起きる時だけに注目すればよい。それがジョブがステーション1に到着した時だ。到着時にステーション1がもう1つのジョブでふさがっている場合は左側の黒矢印で、ステーション1が空いている場合は右側の黒矢印で表わされている。その発生の比はジョブが2個の時の定常状態における状態(1,1)と(0,2)の比に等しいことが図から分かる。そして状態(1,1)と(0,2)の比は図4の緑矢印の遷移によって決定される。そしてそれは図3と同等である。図3はジョブが1個の時の定常状態を表わしているから式(1)(2)が成り立つ。よってこの場合、到着定理が成立する。


このように簡単な例から具体的に考えていったら到着定理の証明にたどり着くのではないか、という確信がここでやってきて、それがひらめきとして感じられた。


以上が昨夜の思考過程でした。


閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(2)」に続きます。