閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(6)

閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(5)」の続きです。


では、一般の閉鎖型ジャクソンネットワークについて到着定理の証明を述べていきます。
まず、ジョブの到着を監視するステーションをステーション1とすることにします。証明すべき事柄は、

  • 定理1
    • ネットワーク全体にジョブがS個あるとして、ステーション1にジョブが到着する時のシステム全体の状態(到着するジョブを除く)の確率分布が、このネットワーク全体にジョブがS−1個ある場合の定常状態確率分布に等しい。

ということです。


さて、ステーション1にジョブを供給するステーションは、(例えば「(5)」での図16のように)複数存在します。しかし、「(5)」でも行なったようにこの中の任意1つのステーションを取り出して、これにについて考えることにします。これをステーションqと呼ぶことにします。そして次の補題を検討します。

  • 補題
    • ネットワーク全体にジョブがS個あるとして、ステーションqからステーション1にジョブが到着する時のシステム全体の状態(到着するジョブを除く)の確率分布が、このネットワーク全体にジョブがS−1個ある場合の定常状態確率分布に等しい。

補題1が成立すれば定理1が成立することは明らかです。


ネットワーク全体にジョブがS−1個あるとして、その任意の状態を取り出して\vec~kで表します。ただし\vec~kk_iからなるベクトルで、k_iはステーションiでのジョブ数です。
次に、状態\vec~kに比べてステーション1だけが1個ジョブ数が多い状態を\vec~k(1:+1)で表します。また、状態\vec~kに比べてステーションqだけが1個ジョブ数が多い状態を\vec~k(q:+1)で表します。状態\vec~k(q:+1)から状態\vec~k(1:+1)への遷移は、ネットワーク全体にジョブがS個ある場合において、ジョブがステーションqから出発してステーション1に到着する遷移を表しています。この時、この到着するジョブは状態\vec~kを見ることになります。全体でジョブがS−1個の場合の状態\vec~kの定常状態確率をP(\vec~k)で表すことにします。また、全体でジョブがS個の場合の状態\vec~k(q:+1)の定常状態確率をp(\vec~k(q:+1))で表すことにします。時間dtの間の状態\vec~k(q:+1)から状態\vec~k(1:+1)への遷移の確率は

  • \frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(q:+1))dt・・・・・(35)

となります。ただしm_qはステーションqの装置台数です。



今度は状態\vec~kに比べてステーションqのジョブ数が1個多く、ステーションiのジョブ数が1個少ない状態を考え、これを\vec~k(i:-1,q:+1)で表します。次に、状態\vec~k(i:-1,q:+1)に比べてステーション1だけが1個ジョブ数が多い状態を\vec~k(1:+1,i:-1.q:+1)で表します。また、状態\vec~k(i:-1,q:+1)に比べてステーションqだけが1個ジョブ数が多い状態を\vec~k(i:-1,q:+2)で表します。状態\vec~k(i:-1,q:+2)から状態\vec~k(1:+1,i:-1.q:+1)への遷移は、ネットワーク全体にジョブがS個ある場合において、ジョブがステーションqから出発してステーション1に到着するもうひとつの遷移を表しています。この時、この到着するジョブは状態\vec~k(i:-1,q:+1)を見ることになります。時間dtの間の状態\vec~k(i:-1,q:+2)から状態\vec~k(1:+1,i:-1.q:+1))への遷移の確率は

  • \frac{\min(k_q+2,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(i:-1,q:+2))dt・・・・・(36)

となります。
(35)と(36)の比がP(\vec~k)P(\vec~k(i:-1,q:+1)の比に等しいことを証明すれば、補題1の証明に一歩近づきます。


閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(7)」に続きます。