閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(7)

閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(6)」の続きです。


待ち行列ネットワークのステーションの数をNとします。ステーションiスループット\theta_iで表します。ステーションiを終えたジョブがステーションjに進む確率をr_{ij}で表します。そうすると、ステーションjに入ってくる量\theta_j

  • \theta_j=\Bigsum_{i=1}^N\theta_ir_{ij}・・・・・・(37)

で表すことが出来ます。式(37)は\thetaについての連立一次方程式になっています。これを満足する\theta

  • \theta_j=f_j(R)・・・・・・(38)

と表わすことにします。ただしR(r_{ij})を簡略的に表わしたものとします。さてaを任意の定数として、式(37)で

  • \theta_ia\theta_i

で置き換えると、やはり式(37)が成り立ちます。つまり式(37)では\thetaは一意には決まらず、定数a不定になります。




一方、定義から

  • \theta_j=\frac{m_ju_j}{t_{ej}}・・・・・・(39)

です。ただしu_jはステーションjの装置の利用率です。式(39)を変形すると

  • \frac{1}{t_{ej}}=\frac{\theta_j}{m_ju_j}・・・・・・(40)

となります。さて、状態\vec~k(j:+1)についての局所平衡方程式は以下のように書くことが出来ます。

  • p(\vec~k(j:+1))\frac{\min(k_j+1,m_j)}{t_{ej}}=\Bigsum_{i=1}^Np(\vec~k(i:+1))\frac{\min(k_i+1,m_i)}{t_{ei}}r_{ij}・・・・・・(41)

これの意味するところは、

  • 状態\vec~k(j:+1)の時にステーションjからジョブの処理が完了して別の状態に遷移する確率のレート(つまりdtあたりの確率)

  • 状態\vec~k(i:+1)の時にジョブがステーションiでの処理を終えてステーションjに向かい状態\vec~k(j:+1)に遷移する確率レートを全てのiについて合計したもの

に等しい、ということです。


式(41)を式(37)と比較すると、(37)で

  • \theta_j{\rightar}p(\vec~k(j:+1))\frac{\min(k_j+1,m_j)\theta_j}{m_ju_j}

と置き換えると(41)になることが分かるので、

  • p(\vec~k(j:+1))\frac{\min(k_j+1,m_j)\theta_j}{m_ju_j}=a\theta_j

つまり

  • p(\vec~k(j:+1))=a\frac{m_ju_j}{\min(k_j+1,m_j)}・・・・・(42)

これを用いると

  • p(\vec~k(i:+1))=a\frac{m_iu_i}{\min(k_i+1,m_i)}・・・・・(43)

式(42)と(43)から

  • \frac{p(\vec~k(j:+1))}{p(\vec~k(i:+1))}=\frac{\min(k_i+1,m_i)m_ju_j}{\min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・・(44)


状態\vec~k(j:+1)\vec~k(i:+1)を比べれば、状態\vec~k(i:+1)でステーションiジョブ数を1減らし、ステーションjジョブ数を1増やしたのが状態\vec~k(j:+1)になりますが、状態\vec~k\vec~k(i:-1,q:+1)についても、状態\vec~kでステーションiジョブ数を1減らし、ステーションqジョブ数を1増やしたのが状態\vec~k(i:-1,q:+1)になるので、これらの状態の関係は並行しています。そこで、状態\vec~k\vec~k(i:-1,q:+1)について(44)を適用すれば

  • \frac{P(\vec~k(i:-1,q:+1))}{P(\vec~k)}=\frac{\min(k_i,m_i)m_qu_q}{\min(k_q+1,m_q)m_iu_i}・・・・・(45)

となります。


一方、遷移確率(35)と(36)の比は

  • \frac{\frac{\min(k_q+2,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(i:-1,q:+2))dt}{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(q:+1))dt}=\frac{\min(k_q+2,m_q)p(\vec~k(i:-1,q:+2))}{\min(k_q+1,m_q)p(\vec~k(q:+1))}・・・・・(46)

ここで(44)を状態\vec~k(i:-1,q:+2)\vec~k(q:+1)について適用すると

  • \frac{p(\vec~k(i:-1,q:+2))}{p(\vec~k(q:+1))}=\frac{\min(k_i,m_i)m_qu_q}{\min(k_q+2,m_q)m_iu_i}・・・・・(46-1)

(46-1)を(46)に代入して

  • \frac{\frac{\min(k_q+2,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(i:-1,q:+2))dt}{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(q:+1))dt}
    • =\frac{\min(k_q+2,m_q)}{\min(k_q+1,m_q)}\frac{\min(k_i,m_i)m_qu_q}{\min(k_q+2,m_q)m_iu_i}=\frac{\min(k_i,m_i)m_qu_q}{\min(k_q+1,m_q)m_iu_i}・・・・・(47)

式(45)と(47)より

  • \frac{\frac{\min(k_q+2,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(i:-1,q:+2))dt}{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(q:+1))dt}=\frac{P(\vec~k(i:-1,q:+1))}{P(\vec~k)}・・・・・(48)

これで、以下の補題が証明出来ました。この補題補題2とします。

  • 補題
    • ネットワーク全体でジョブがS個ある場合に、ステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態が\vec~kである確率と\vec~k(i:-1,q:+1)である確率の比は、ネットワーク全体でジョブがS−1個ある場合のP(\vec~k)P(\vec~k(i:-1,q:+1))の比に等しい。


閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(8)」に続きます。