閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(8)

閉鎖型待ち行列ネットワークの到着定理(7)」の続きです。


補題2を導出する過程でi=1にしてもこの導出が成立することに注意して下さい。また、補題2から状態\vec~k\vec~k(i:+1.q:-1)の間でも同様な関係が成り立つことが分かります。

  • 補題
    • ネットワーク全体でジョブがS個ある場合に、ステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態が\vec~kである確率と\vec~k(i:+1,q:-1)である確率の比は、ネットワーク全体でジョブがS−1個ある場合のP(\vec~k)P(\vec~k(i:+1,q:-1))の比に等しい。

さらに、状態\vec~k\vec~k(i:-1,j:+1)(ただしi{\neq}qj{\neq}q)について考えます。そして

  • 補題
    • ネットワーク全体でジョブがS個ある場合に、ステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態が\vec~kである確率と\vec~k(i:-1,j:+1)である確率の比は、ネットワーク全体でジョブがS−1個ある場合のP(\vec~k)P(\vec~k(i:-1,j:+1))の比に等しい。

が成り立つかどうかを調査します。遷移確率の比は

  • \frac{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(i:-1,j:+1,q:+1))dt}{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(q:+1))dt}=\frac{p(\vec~k(i:-1,j:+1,q:+1))}{p(\vec~k(q:+1))}・・・・・(49)

となります。式(44)を状態\vec~k(q:+1)\vec~k(i:-1,j:+1,q:+1)に適用すれば

  • \frac{p(\vec~k(i:-1,j:+1.q:+1))}{p(\vec~k(q:+1))}=\frac{\min(k_i,m_i)m_ju_j}{\min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・・(50)

式(50)を(49)に代入して

  • \frac{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(i:-1,j:+1,q:+1))dt}{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(q:+1))dt}=\frac{min(k_i,m_i)m_ju_j}{min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・・(51)

次に式(44)を状態\vec~k\vec~k(i:-1,j:+1)に適用すれば

  • \frac{P(\vec~k(i:-1,j:+1))}{P(\vec~k)}=\frac{min(k_i,m_i)m_ju_j}{min(k_j+1,m_j)m_iu_i}・・・・・(52)

式(51)と(52)から

  • \frac{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(i:-1,j:+1,q:+1))dt}{\frac{\min(k_q+1,m_q)}{t_{eq}}p(\vec~k(q:+1))dt}=\frac{P(\vec~k(i:-1,j:+1))}{P(\vec~k)}・・・・・(53)

よって補題4が成り立ちます。


ネットワーク全体でジョブがS−1個ある場合の全ての状態は、合計ジョブ数が一定なので、ステーションijqの間でジョブ数を1つ移す操作を繰り返すことによって、任意の状態から別の任意の状態に変換することが出来ます。(iは1を含むことに注意) よって補題2、3,4から次の補題が導かれます。

  • 補題
    • ネットワーク全体でジョブがS個ある場合に、ステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態が\vec~kである確率と\vec~wである確率の比は、ネットワーク全体でジョブがS−1個ある場合のP(\vec~k)P(\vec~w)の比に等しい。


最後に、ネットワーク全体でジョブがS個ある場合に、ステーション1にジョブが到着する際、そのジョブが見る状態の確率の合計は1であり、ネットワーク全体でジョブがS−1個ある場合の状態の確率の合計も1であることと、補題5から

  • 補題
    • ネットワーク全体にジョブがS個あるとして、ステーションqからステーション1にジョブが到着する時のシステム全体の状態(到着するジョブを除く)の確率分布が、このネットワーク全体にジョブがS−1個ある場合の定常状態確率分布に等しい。

が導かれます。補題1から

  • 定理1
    • ネットワーク全体にジョブがS個あるとして、ステーション1にジョブが到着する時のシステム全体の状態(到着するジョブを除く)の確率分布が、このネットワーク全体にジョブがS−1個ある場合の定常状態確率分布に等しい。

が導かれます。これで一般の閉鎖型ジャクソンネットワークについて到着定理の証明が出来ました。