GI/G/1待ち行列の平均待ち時間の式

Marshallの公式に向けて(1)」で引用した「待ち行列における近似モデル 逆瀬川浩孝氏」の一節

5.平均値の近似

 混雑の指標として、何かの特性量の期待値だけを知りたい(求めたい)という場合がある。システム全体の解析を経ることなく、簡単な計算によって、そのような指標が求められるならば、いろいろなパラメータを動かした時の変化の様子を調べて最適なパラメータを選ぶという作業が容易になるであろう。たとえば単一窓口モデルGI/G/1の待ち時間を考えてみよう。n番目に到着した客の待ち時間をW_n、サービス時間をB_nn番目とn+1番目の客の到着間隔をA_nとすれば、

  • W_{n+1}=\max(0,W_n+B_n-A_n){\equiv}(W_n+B_n-A_b)^+

という関係が成り立つ。適当な条件のもとでW_nnを大きくすると平衡状態での待ち時間Wに収束し、平均待ち時間は上の式を使って、

  • EW=\frac{Var(U)}{2E(-U)}-\frac{Var(Y)}{2E(-U)}
    • (ただし、U=B-AY=-\min(0,W+U)

と表すことが出来る。

について、「Marshallの公式に向けて(1)」を書いた時点(2009/2/16)では、なぜ

  • W_{n+1}=\max(0,W_n+B_n-A_n){\equiv}(W_n+B_n-A_b)^+・・・・・(1)

から

  • EW=\frac{Var(U)}{2E(-U)}-\frac{Var(Y)}{2E(-U)}・・・・・(2)

が成り立つのか理解出来ていませんでした。しかし、最近「講義ノート7章--応用確率過程特論のヘルプページ(2008年版)--逆瀬川浩孝」を読んで(2)の導出の仕方が分かりました。それをここに記します。


まず、

  • U_n=B_n-A_n・・・・・(3)
  • Y_n=-\min(0,W_n+U_n)・・・・・(4)

と置きます。(1)と(3)から

  • W_{n+1}=\max(0,W_n+U_n)

これを変形すると

  • W_{n+1}=W_n+U_n-\min(0,W_n+U_n)

ここで(4)を用いると

  • W_{n+1}=W_n+U_n+Y_n・・・・・(5)


式(4)から

  • Y_n{\ge}0

です。これをY_n>0の場合とY_n=0の場合に分けて考えます。

  • Y_n>0ならば
    • Y_n=-(W_n+U_n)
    • よって(5)から
    • W_{n+1}=0
  • Y_n=0ならば
    • (5)から
    • W_{n+1}=W_n+U_n

よっていずれの場合も

  • Y_nW_{n+1}=0・・・・・(6)


ここで確率変数W_n,U_n,Y_nn\rightar\inftyでそれぞれ確率変数W,U,Yに収束すると仮定する。式(5)の平均(集合平均)をとり、n\rightar\inftyとすると

  • EW=EW+E(U)+E(Y)

よって

  • 0=E(U)+E(Y)
  • E(Y)=-E(U)・・・・・(7)


(5)から

  • W_{n+1}-Y_n=W_n+U_n

両辺を2乗して

  • W_{n+1}^2-2Y_nW_{n+1}+Y_n^2=W_n^2+2W_nU_n+U_n^2

ここで(6)を用いると

  • W_{n+1}^2+Y_n^2=W_n^2+2W_nU_n+U_n^2

両辺の平均をとると

  • E(W_{n+1}^2)+E(Y_n^2)=E(W_n^2)+2E(W_nU_n)+E(U_n^2)・・・・・(8)

ここでE(W_nU_n)について考えると、W_nn番目のジョブの待ち時間であり、U_nU_n=B_n-A_nであり、B_nn番目のジョブの処理時間、A_nn番目のジョブn+1番目のジョブの到着時刻の差であるので、W_nB_nは独立であり、W_nA_nも独立である。よってW_nU_nは独立です。よって

  • 2E(W_nU_n)=2E(W_n)E(U_n)

よって(8)は

  • E(W_{n+1}^2)+E(Y_n^2)=E(W_n^2)+2E(W_n)E(U_n)+E(U_n^2)

ここでn\rightar\inftyとすると

  • E(W^2)+E(Y^2)=E(W^2)+2EWE(U)+E(U^2)

よって

  • E(Y^2)=2EWE(U)+E(U^2)

よって

  • EW=\frac{E(Y^2)-E(U^2)}{2E(U)・・・・・(9)

さらに(9)から

  • EW=\frac{(E(Y^2)-E(Y)^2)-(E(U^2)-E(Y)^2)}{2E(U)・・・・・(10)

ここで(7)を用いれば

  • EW=\frac{(E(Y^2)-E(Y)^2)-(E(U^2)-E(U)^2)}{2E(U)

よって

  • EW=\frac{Var(Y)-Var(U)}{2E(U)}

よって

  • EW=\frac{Var(U)}{2E(-U)}-\frac{Var(Y)}{2E(-U)}・・・・・(2)

が導かれました。