閉鎖型ネットワーク内のステーションからの出発過程(3)

閉鎖型ネットワーク内のステーションからの出発過程(2)」の続きです。


P(n,0;0)の求め方ですが、この確率の意味は、装置2からジョブが出発した時点でネットワークの状態が(n,0)になる確率です。装置2からジョブが出発した時点というのは下図から分かるように

  • 図1

装置1に到着した時点であり、ここで「到着定理」を適用することが出来ます。到着定理を用いれば、P(n,0;0)はネットワーク内にジョブn-1個ある場合の状態(n-1,0)の定常状態確率に等しいことになります。そこでこの確率をp(n-1,0)で表すことにします。


では、ネットワーク内にジョブn-1個ある場合の定常状態確率を求めてみましょう。状態遷移図を描くと以下のようになります。

  • 図3

まず、状態(n-1,0)に出入りする遷移の確率について平衡方程式を書き下すと

  • p(n-1,0)\frac{dt}{t_{e1}}=p(n-2,1)\frac{dt}{t_{e1}}

ここから

  • p(n-1,0)=p(n-2,1)

次に、状態(n-2,1)に出入りする遷移の確率について平衡方程式を考えますと、すでに(n-1,0)との間の出入りの遷移の確率が等しいことが上で分かっていますので、今度は状態(n-2,1)と状態(n-3,2)の間の遷移の出入りが等しいことだけを考えればよいことになります。

  • p(n-2,1)\frac{dt}{t_{e1}}=p(n-3,2)\frac{dt}{t_{e1}}

よって

  • p(n-2,1)=p(n-3,2)

このように考えていけば全ての状態が等しい確率を持つことが分かります。全部で状態はn個あるので、各々の状態の確率は一律に

  • \frac{1}{n}

であることが分かります。よって

  • p(n-1,0)=\frac{1}{n}

よって

  • P(n-1,0;0)=\frac{1}{n}・・・・・(18)

式(17)

  • P(n,0;0)+P(n-m,m;0)=1・・・・・(17)

と式(18)から

  • P(n-m,m;0)=1-\frac{1}{n}・・・・・(19)

これと式(18)を式(16)

  • g(t)=\frac{1}{t_{e1}}\left(P(n,0;0)\frac{t}{t_{e1}}+P(n-m,m;0)\right)\exp\left(-\frac{t}{t_{e1}}\right)・・・・・(16)

に代入すると

  • g(t)=\frac{1}{t_{e1}}\left[\frac{t}{nt_{e1}}+\left(1-\frac{1}{n}\right)\right]\exp\left(-\frac{t}{t_{e1}}\right)・・・・・(20)

これで、装置2からの出発過程における出発間隔の分布式が求まりました。この式でn=1とすれば、

  • g(t)=\frac{t}{t_{e1}^2}\exp\left(-\frac{t}{t_{e1}}\right)

となって2次のアーラン分布になります。このことは「閉鎖型ネットワーク内のステーションからの出発過程(1)」で検討した結果に一致します。次に式(20)でn\rightar\inftyとすれば

  • g(t)=\frac{1}{t_{e1}}\exp\left(-\frac{t}{t_{e1}}\right)

となり、予想通り指数分布になります。


次に式(20)の分布の2乗変動係数を求めます。そのためにまず、平均と分散を計算します。そのためには式(20)が、2次のアーラン分布と指数分布の加重平均になっていることに注意すると計算が分かりやすくなります。

  • f_e(t;k,\lambda)=\frac{\lambda^kt^{k-1}}{(k-1)!}\exp(-\lambda{t})・・・・・(21)

であるようなf_e(t;k,\lambda)k次のアーラン分布を表すことにします。「アーラン分布」の結果から

  • \Bigint_0^{\infty}tf_e(t;k,\lambda)dt=\frac{k}{\lambda}・・・・・(22)
  • \Bigint_0^{\infty}t^2f_e(t;k,\lambda)dt=\frac{k(k+1)}{\lambda^2}・・・・・(23)

です。(21)を用いると式(20)を以下のように表すことが出来ます。

  • g(t)=\frac{1}{n}f_e(t;2,1/t_{e1})+\left(1-\frac{1}{n}\right)f_e(t;1,1/t_{e1})・・・・・(24)

この分布に従う確率変数をXで表しましょう。Xの平均E(X)は(22)を用いて

  • E(X)=\Bigint_0^\infty{t}g(t)dt=\frac{1}{n}\Bigint_0^\infty{t}f_e(t;2,1/t_{e1})dt+\left(1-\frac{1}{n}\right)\Bigint_0^\infty{t}f_e(t;2,1/t_{e1})dt
    • =\frac{1}{n}2t_{e1}+\left(1-\frac{1}{n}\right)t_{e1}=\left(1+\frac{1}{n}\right)t_{e1}

よって

  • E(X)=\left(1+\frac{1}{n}\right)t_{e1}・・・・・(25)

この分布の2乗平均E(X^2)は(23)を用いて

  • E(X^2)=\Bigint_0^\infty{t^2}g(t)dt=\frac{1}{n}\Bigint_0^\infty{t^2}f_e(t;2,1/t_{e1})dt+\left(1-\frac{1}{n}\right)\Bigint_0^\infty{t^2}f_e(t;2,1/t_{e1})dt
    • =\frac{1}{n}6t_{e1}^2+\left(1-\frac{1}{n}\right)2t_{e1}^2=2\left(1+\frac{2}{n}\right)t_{e1}^2

よって

  • E(X^2)=2\left(1+\frac{2}{n}\right)t_{e1}^2・・・・・(26)

よってXの分散V(X)

  • V(X)=E(X^2)-E(X)^2=\left[2\left(1+\frac{2}{n}\right)-\left(1+\frac{1}{n}\right)^2\right]t_{e1}^2
    • =\left(2+\frac{4}{n}-1-\frac{2}{n}-\frac{1}{n^2}\right)t_{e1}^2=\left(1+\frac{2}{n}-\frac{1}{n^2}\right)t_{e1}^2

よって

  • V(X)=\left(1+\frac{2}{n}-\frac{1}{n^2}\right)t_{e1}^2

よって出発過程の2乗変動係数c_d^2

  • c_d^2=\frac{V(X)}{E(X)^2}=\frac{\left(1+\frac{2}{n}-\frac{1}{n^2}\right)t_{e1}^2}{\left(1+\frac{1}{n}\right)^2t_{e1}^2
    • =\frac{1+\frac{2}{n}-\frac{1}{n^2}}{\left(1+\frac{1}{n}\right)^2}=\frac{1+\frac{2}{n}+\frac{1}{n^2}-\frac{2}{n^2}}{\left(1+\frac{1}{n}\right)^2
    • =\frac{\left(1+\frac{1}{n}\right)^2-\frac{2}{n^2}}{\left(1+\frac{1}{n}\right)^2}=1-\frac{\frac{2}{n^2}}{\left(1+\frac{1}{n}\right)^2}=1-\frac{2}{(n+1)^2}

よって

  • c_d^2=1-\frac{2}{(n+1)^2}・・・・・(27)


DBRの効果を示すモデル(3)」に続きます。