「2.5. 感度分析」の続きです。
2.6. 洞察の源
待ち行列ネットワーク・モデル化の主要な長所は、モデル化サイクルがスタディ中のコンピュータ・システムについての多くの洞察を生みだすことである。これらの洞察は作業負荷特徴づけや、モデル定義や、システム測定や、モデルのパラメータ値決定や修正解析の最中に発生する。モデル化サイクルの予測フェーズの間に得られたモデル出力は洞察の多くの源のうちの1つでしかないということを心に留めることは重要である。以下のケーススタディを考察しよう。
ある保険会社がそのクレーム処理を、20の地理的に分かれたサイトに同一のミニコンピュータ・システムを設置することにより分散化した。作業負荷が増えるにつれて、これらのシステムは適切な応答を提供することを止め、2段階のキャパシティ拡張プログラムが始まった。すなわち、全てのサイトでの、元々のベンダから2つの利用可能なソフトウェア・コンパチブルなシステムのうちの1つへの即座のアップグレードと、それに続く「制約のない」システムの購入とソフトウェアのコンバージョンの3年に渡る過程とである。両方の段階の選択肢を評価するために待ち行列ネットワーク・モデル化が用いられた。このセクションでは、各々のサイトの「移行用システム」の選択について考慮する。
一緒に作業をして、ベンダ(IBM)とその保険会社は、仮に既存システム(どちらの場合も3790)はより安価な2つの移行用システム(8130)に置き換えられたならば性能は「1.5から2.0倍に向上し」、仮により高価な移行用システム(8140)に置き換えられたならば「2.0から3.5倍に向上し」たであろうと評価していた。(これらの文章にはかなりの曖昧さがあることに注意しよう。) モデル化スタディの趣意書は、3年間の移行期間の間、受入れ可能な性能を達成するためにより高価なシステムを20サイトのうちのどこで要求されるかを決定することであった。
このスタディをサポートするために提供された情報は、「生の」作業負荷のもとでいくつかのサイトで行われた既存3790システムの測定や、さまざまな数の事務員がスクリプトからトランザクションを入れたベンチマーク試行の間の3790とより高価な移行用システム(8140)の測定や、3システムのCPUとディスクのスピードを比較したベンダからの情報を含んでいた。「生の」作業負荷テストは、3つのはっきり分かれた作業負荷コンポーネントが存在しているが、これらの1つで、主要な興味があるものとして予め特定されていたものが、トランザクションの約75%とリソース消費の約90%を占めていることを明らかにした。それゆえ単一クラス・モデルがふさわしいと判断された。相対ハードウェア速度のベンダによる評価は(考えられる負荷強度の範囲に関して)制約がありすぎて全体性能についていかなる洞察も生み出さなかったが、ベンチマーク・テストはそれらを確認した。利用可能な情報の全てを考察することによって、以下に示すサービス要求時間を計算することは可能であった。前述のように、2つの移行用システムは、既存システム上のディスクに比べて約2倍速い同一のディスクを装備されていた。移行用システムはそのCPUが異なっていた。8130CPUは実際、既存3790のCPUより若干遅いが、一方8140CPUは約50%速かった。
さてキーとなる観察をしよう。既存システム上では作業負荷はCPU制約である。さらに、応答時間が受入れ不可能なので、CPUがほぼ飽和しているのに充分なくらい作業負荷が高いと仮定することが出来る。これらの環境のもとでは8130のより速いディスクはどうでもいいが、一方そのより遅いCPUはかなりの重荷である。さらに調査することなく我々は、3790を8130で置き換えることは応答時間の悪化を引き起こすことを結論出来る。
この解析を元にして、保険会社は8130上でベンチマーク・テストを実行した。これらのテストは解析を支持し、全てのサイトは8140にアップグレードされるという結果を得た。(このスタディは第5章でさらに考察される。)
「2.7. まとめ」に続きます。