4.5. 検討:Quantitative System Performance

4.4.2. 出力」の続きです。

4.5. 検討


 分離可能待ち行列ネットワーク・モデルで使用可能な特定の入力と出力は、ちょうど記述したように、評価の効率を確保するために課した一群の数学的仮定によって決定されている。このセクションの目的はこれらの仮定の我々のモデルの精度への実際の影響を考察することである。特に、

  • 分離可能モデルを用いて直接表現出来ないコンピュータ・システムの重要な特徴は何か?
  • これらの明白な不備があるとして、コンピュータ・システム解析における分離可能モデルの成功をどう説明することが出来るのか?
  • 分離可能モデルが本当に不適切であるような避けられない状況に解析者はどのように取り組むか?

当然、これらの疑問に対する完全な答はこの本の残りを待たなければならない。このセクションは洞察を提供し直感を導くためのこれらの答の伏線を含む。簡単にするために、我々の検討は大部分、単一クラスの状況に設定される。

  • 図4.2 標準的コンピュータ・システム・モデル


 図4.2に集中型システムの標準分離可能ネットワーク・モデルを示す。これはこの本の至るところで現れる。このモデルはこの章の初めのほうで検討した入力と出力を持つ。サービスセンターはCPUとアクティブなI/Oストレージ・デバイス、つまりディスクを表現するために用いられる。一方では、このモデルはコンピュータ・システムと密接な構造上の類似点を有している。他方では、使用可能な入力を用いて直接表現出来ない若干のコンピュータ・システムの特徴と、使用可能な出力から直接得ることが出来ない若干の性能尺度が存在する。

  • 同時リソース占有
    • コンピュータは複数のリソースで同時の処理を要求するかもしれないという事実を表現する直接的な方法を我々は持っていない。例として、データをディスクへ、あるいはディスクから転送するために、ディスクとコントローラとチャネルを並行して使用する必要があるだろう。
  • メモリ制約
    • トランザクション作業負荷を用いる時、我々は暗黙のうちに任意の大きさの数の客が同時にメモリ滞在者であることが可能であると仮定している。バッチ作業負荷を用いるとき、我々は暗黙のうちに並行プログラミング・レベルは一定の値であると仮定している。端末作業負荷を用いる時、我々は暗黙のうちに全ての端末ユーザが同時にメモリ内の滞在者であることが出来ると仮定している。実際には、同時にアクティブなジョブの数は時間とともに変化するが、あるメモリ制約によって制限される。
  • ブロッキング
    • 蓄積交換通信ネットワークのようなシステムでは、あるリソースの状態が別のリソースでの客の処理に影響を与える。
  • 適応動作
    • タイムシェアリング・システムはスクラッチ・ファイルを負荷の軽いディスクに動的に割当てるだろう。通信ネットワークはさまざまなノードでの客の個数に基づいて動的ルーティング決定を行うだろう。
  • プロセスの生成と同期
    • あるクラス内の客の数は一定のままである(クローズド・クラス)かあるいは制限がない(オープン・クラス)かのいずれかであるので、プロセスが計算の特定のポイントに達したときにフォークを実行する(サブプロセスを生成する)プロセスを表現することは不可能である。同様に、客は互いに独立であるので2つ以上のプロセスの計算において同期ポイントを直接モデル化することは不可能である。
  • 処理時間の高い変動
    • 実際には、極端に高い処理バースト長変動はシステムの性能を悪化させる可能性がある。
  • 応答時間分布
    • 適切な費用で直接入手可能な、役に立つモデル出力のリストには応答時間の分布が含まれていない。


ならば、なぜ、分離可能待ち行列ネットワーク・モデルは複雑な現代のコンピュータ・システムの振舞を表現することと、そのハードウェアやソフトウェアや作業負荷の変更の影響を予測することに成功するのだろうか?
 最初に既存システムのモデルを定義しパラメータ値を決定する過程を考察しよう。我々が無視しているように見えるシステムに関係のある複雑さの多くは、実際には、モデルのパラメータ値を決定するのに用いた測定データに暗黙のうちに捕捉されている。例として、I/Oパス・コンテンションの効果について考えよう。我々の標準モデルは、ディスクだけを表現し、チャネルやコントローラといった中間パス要素を表現していない。しかし、モデルのパラメータ値を決定する際に我々は各々のディスク・センターkでの処理要求時間D_kを、1ジョブあたりの測定された総ディスク・ビジー時間に等しい、と設定し、U_kT/Cと計算するだろう(Cはここでは測定された完了数である)。ディスクを測定する際、我々はそれがビジーなのはシークや待ち時間(レイテンシー)やデータ転送の間だけではなく、空いているパスを得ようと試みている期間もであることを見い出す。言い換えれば、I/Oパス・コンテンションの効果は、ディスク処理要求時間パラメータによって間接的に組み込まれている。このような仕方でパラメータ値を決定されたモデルはうまく測定期間の間システムの振舞を表現していると期待することが出来る。
 次に、修正の効果を予測するようなモデルを用いることを考えよう、多くの場合、測定データに基づくシステムの特徴の間接的な表現は、提案する修正には左右されないと仮定出来る。例えば、CPUアップグレードの主要効果は、CPU処理要求時間を調整することによってモデル内に表現出来る。ディスク処理要求時間へのこの修正のいかなる効果も、――「固有」の要求時間(シーク、待ち時間(レイテンシー)、データ転送、の時間)かあるいはパス・コンテンションによる要素のいずれかも――厳密には事実上副次的である。分離可能モデルが自分自身の適切さを明かすのはこれらの場合である。
 時には、もちろん、スタディの目的は、システム特徴の間接的表現に影響を与えると予想出来るような修正についての詳細な質問に答えることである。例えば、仮にI/Oパス・コンテンションが顕著な問題であることが知られていたとするならば、解析者は、パスの修正から結果としてもたらされる性能改善を予測するために待ち行列ネットワーク・モデルを用いたいかもしれない。このような場合、分離可能モデルは、関連するシステム特徴の間接的表現であるさまざまな処理要求時間のそれらの部分について改訂された評価を計算する手順で増強することが出来る。これらは第1章でほのめかした「拡張」である。この方法は必要な精度を達成し、一方でモデルを効率的に評価する能力を保存する。このセクションで先に述べた各々のシステム特徴についてそのようなテクニックが存在する。

4.6. まとめ」に続きます。