5.2.1.トランザクション作業負荷:Quantitative System Performance

5.2.漸近的境界」の続きです。(目次はこちら

5.2.1.トランザクション作業負荷


 トランザクション作業負荷について、スループット境界は、システムが処理出来る可能な最大の客の到着レートを示す。もし到着レートがこの境界を越えたら、ジョブが到着するにつれて未処理の客の積み残しが連続的に増加する。よって、長期的には、到着ジョブは無制限の長い時間を待たなければならない(それが到着した時、キュー内にすでに任意の数のジョブが存在するから)。この場合に、我々は、システムは飽和したと言う。よってスループット境界は飽和から実行可能な処理を分かつ到着レートである。
 スループット境界を決定するキーは稼動率の法則、センターkについてU_k=X_kS_kである。もしシステムへの到着レートを\lambdaで示すとX_k=\lambda{V_k}であり、稼動率の法則はU_k=\lambda{D_k}と書き直すことが出来る。ただし、D_kはセンターkでの処理要求時間である。スループット境界を導くために、全てのセンターが未使用キャパシティ(つまり1より小さい稼動率)を持つ限り、増加した到着レートを受入れ可能である。しかし、センターのいずれかが飽和する(つまり、稼動率が1)と、システム全体が飽和する。というのは客の到着レートの増加をうまく処理出来ないからである。よって、スループット境界は任意のセンターが飽和した時の最小到着レート\lambda_{sat}である。明らかに、最低の到着レートで飽和したセンターはボトルネック・センター、つまり、最大の処理要求時間を持つセンター、である。ボトルネック・センターを示す指標をmaxとしよう。すると、

  • U_{max}(\lambda)=\lambda{D_{max}}{\le}1

よって

  • \lambda_{sat}=\frac{1}{D_{max}}

よって、1/D_{max}以上の到着レートにおいて、システムは飽和するが、1/D_{max}未満の到着レートではシステムは処理が出来る。
 漸近的応答時間境界はシステム到着レートが\lambdaの場合の客が経験する可能な最大と最小の応答時間を示す。もし\lambda>\lambda_{sat}ならばシステムは非定常的なので、到着レートがスループット境界未満の場合に我々の調査を限定する。2つの極端な場合が存在する。

  • 可能な最良の場合では、どの客もけっして互いに干渉せず、待ち時間を経験しない。その場合、各々の客のシステム応答時間は単純にその処理要求時間の合計であり、それをDで示す。
  • 可能な最悪の場合では、毎n/\lambda時間単位毎にn個の客が一緒に到着する(システム到着レートは\frac{n}{n/\lambda}=\lambda)。バッチの後のほうの客はバッチの前のほうの客を待つことを強いられるので、長い応答時間を経験する。バッチサイズnが増加するにつれて、より多くの客がだんだん長い時間を待つようになる。よって、システム到着レート\lambdaにおける応答時間の任意の想定された悲観的な境界について、その境界を越えるのに充分なくらい大きなバッチサイズnを採ることが可能である。到着レート\lambdaがどれほど小さいかに係わらず、応答時間の悲観的境界は存在しないという結論になる。

これらの結果は若干不満足なものである。幸い、クローズド(バッチと端末の)作業負荷タイプの場合、スループット応答時間の境界はより多くの情報を提供する。

5.2.2.バッチと端末の作業負荷」に続きます。