5.3.3.修正解析の例:Quantitative System Performance

5.3.2.ボトルネック除去の効果」の続きです。(目次はこちら

5.3.3.修正解析の例


 ここで我々は既存システムの修正の影響を評価するための漸近的境界の利用を検討する。以下の測定データを得ているような単純化された会話型システムについて考慮しよう。

  • T=900秒。測定期間の長さ
  • B_1=400秒。CPUビジー時間
  • B_2=100秒。遅いディスクのビジー時間
  • B_3=600秒。速いディスクのビジー時間。
  • C=200ジョブ。完了ジョブ数
  • C_2=2000回。遅いディスクの処理数
  • C_3=20,000回。速いディスクの処理数
  • Z=15秒。考慮時間


1ジョブあたりの処理要求時間はD_1=2.0D_2=0.5D_3=3.0である。ディスクへの訪問回数はV_2=10V_3=100である。1訪問あたりの処理時間はS_2=0.05S_3=0.03である。我々はシステムに施すことが出来る4つの改善を考慮する。これらは、モデルのパラメータにどれだけ反映されるかを示した指標とともに以下に示す。

  • 1.
    • CPUを2倍速いものに置き換える。D_1\leftar{1}
  • 2.
    • 若干のファイルを速いディスクから遅いディスクに移し、それらの要求のバランスをとる。我々は主要効果のみを考慮する。そしてそれはディスクスピードの変化であり、転送するブロックの平均サイズが2つのディスクで異なっている事実のような可能性のある副次効果は無視する。新しいディスク処理要求時間は以下のように求められる。V_2+V_3=110S_2=0.05S_3=0.03なので、これは
      • \frac{V_2S_2}{0.05}+\frac{V_3S_3}{0.03}=110
    • に等しい。我々はD_2=V_2S_2=V_3S_3=D_3としたいのであるから
      • D_2\left[\frac{1}{0.05}+\frac{1}{0.03}\right]=110
    • よってD_2=D_3=2.06。適切な処理時間で割ることによって新しい訪問回数を得ることが出来る。すなわちV_2=41V_3=69
  • 3.
    • 既存の忙しいほうのディスクの負荷の半分を処理するために第2の速いディスク(センター4)を追加する。やはり、この変更の主要効果のみを我々は考慮する。K\leftar{4}D_3\leftar{1.5}D_4\leftar{1.5}
  • 4.
    • 3つの変更を一緒に行う。つまり、より速いCPUと、2つの速いディスクと1つの遅いディスクの間での負荷のバランス、である。処理要求時間はD_1=1D_2=1.27D_3=1.27D_4=1.27となる。これらは上記で利用されたのと同様な仕方で導出された。V_2+V_3+V_4=110であることが分かっている。D_2=D_3=D_4となるためには
      • \frac{V_2S_2}{0.05}+\frac{V_3S_3}{0.03}+\frac{V_4S_4}{0.03}=110
      • D_2\left[\frac{1}{0.05}+\frac{1}{0.03}+\frac{1}{0.03}\right]=110
      • D_2=D_3=D_4=\frac{0.0015}{0.13}{\times}110=1.27
  • 図5.6 さまざまな変更の効果の例


 図5.6は元々のシステムの(「なし」と名前をつけた)、そして各々の修正の(それぞれ「(1)」「(2)」「(3)」と名づけられた)、そして3つを組み合わせたものの(「(1)+(2)+(3)」と名づけられた)楽観的漸近的境界を示している。直感的には1番目の変更が最も効果があるように見えるが、図5.6はそれが本当ではないことを示している。速いディスクが元々のボトルネックであるので、変更2と3がずっと影響力が大きい。変更2は変更3とほぼ同等に改善をもたらすがそれは追加のハードウェアを要求しないことに注意しよう。3つの修正の組合せは本当に目覚しい結果をもたらす。
 このセクションで行った修正解析は性能に関する漸近的境界のみを取り込んできた。第13章では我々のモデルを評価するより洗練されたテクニックを用いて、もう一度修正解析を考察することになる。


5.4.バランスのとれたシステムの境界(1)」に続きます。