6.2. 作業負荷の表現:Quantitative System Performance

6.1. 導入」の続きです。(目次はこちら

6.2. 作業負荷の表現


 単一クラス待ち行列ネットワーク・モデルの作業負荷の表現は2つのモデル入力、すなわち、処理要求時間の集合と、負荷強度、によって与えられる。単一クラス・モデルを用いる際、システム内で実行している全てのジョブは充分類似しておりそれらの違いはシステム性能に大きな影響を与えない、という仮定を本質的に設定する。よって、一群の処理要求時間を計算することは1つの組しか要求しないのでかなり簡単である。(対照的に、複数クラス・モデルではまずいくつのクラスで表現するかを決め、次に各々のクラスについての処理要求時間の個別の一組を計算しなければならない。)
 負荷強度をはっきりさせることには2つの側面がある。1つは適切な作業負荷タイプ(トランザクション、バッチ、端末)を選択することであり、もう一つはそのタイプについて適切な負荷強度パラメータを設定することである。待ち行列ネットワーク・モデルの3つの作業負荷タイプはコンピュータ・システムの3つの主要な作業負荷タイプと直接対応しているので、適切な作業負荷タイプを選択することは、通常、簡単である。発生する1つの技術的な区別は、オープン・モデル(トランザクション・クラスを持つモデル)とクローズド・モデル(バッチまたは端末のクラスを持つモデル)の間の区別である。任意の時刻にオープン・モデルにいる客の数は制限されていないが、クローズド・モデルにいる客の数はクローズド・クラスの個体数によって制限されているので、オープン・モデルの応答時間は同じシステム・スループットを持つ対応するクローズド・モデルの応答時間よりも大きくなる傾向がある。オープン・モデルでは極端に大きな待ち行列長の可能性が存在するが、クローズド・モデルではその有限の個体数のためにそれが存在しないのでこのようなことが起こる。この違いは通常、システム内のどれかのデバイスが飽和に近い場合にのみ顕著である。
 これは我々に、どのように負荷強度パラメータを設定するかという問題をもたらす。待ち行列ネットワーク・モデルでは、負荷強度は固定の値(到着レート、あるいは、個体数、あるいは、個体数と考慮時間)である。対照的に、コンピュータ・システムでは、作業負荷は変化するかもしれない。この食い違いにもかかわらず、待ち行列ネットワーク・モデルは広い範囲の状況において役立つ。

  • 重負荷仮定:最大可能負荷の下でのシステムの振舞を研究することは興味深いことであろう。仮定によって、負荷は充分に重いのでメモリに入ろうとして待っているジョブが常に存在する。よって、1ジョブが完了してメモリを解放する時、それは即座に他のジョブに置き換えられる。よって作業負荷は一定の客数がシステムの最大多重プログラミング・レベルに等しいバッチ・クラスとして表現される。
  • 非整数負荷強度:システムの測定データは、平均多重プログラミング・レベル(または端末ユーザのアクティブな数)が整数ではないことを示すかもしれない。待ち行列ネットワーク・モデルを評価するための若干のアルゴリズムは非整数客個体数を許している。他のアルゴリズムはそうではない。後者について、モデルは、近傍の整数負荷強度の値と補間によって得られた非整数解について評価することが出来る。例えばもし測定した多重プログラミング・レベルが4.5であったならば、バッチ個体数4と5のモデルの解が計算され、それらの平均が客数4.5についての予測として採用される。
  • 負荷強度分布:測定データは観測された負荷強度の分布を、つまり、システム上にアクティブな端末ユーザがn名いた時間の割合P[N=n]を、提供するかもしれない。この分布は各々の観測されたユーザ数のモデルについて得られた解を重み付けするために用いられる。表6.1に例を示す。
  • U_{CPU}=\Bigsum_{n=1}^4P[N=n]U_{CPU}(n)=0.0645
  • R=\Bigsum_{n=1}^4\left[\frac{X(n)P[N=n]}{\Bigsum_{j=1}^4X(j)P[N=j]}R(n)\right]=2.492
  • 表6.1 分布情報の使用
  • 規模決定スタディ:単一クラス・モデルの解は極端に迅速に得られるので、モデルの多数の負荷強度について評価することが実行可能である。よって、「平均応答時間が3秒未満で提供出来る最大トランザクション到着レートはいくつか?」といった質問にモデルの到着レートを変え(例えば、\lambda=1,2,...と設定し)、報告される応答時間を観測することによって答えることが出来る。
  • 頑強性スタディ:同様に、作業負荷の増加が正確に予測出来ないことがしばしばあるので、予測された負荷強度のまわりの負荷強度の範囲についてモデルを評価することは一般的に有用である。これは、予測を超える作業負荷の増加の、予測された性能への影響を解釈者が評価することを可能にする。

6.3.ケーススタディ」に続きます。