6.4.2.クローズドモデル解法:Quantitative System Performance

6.4.1.オープンモデルの解法(2)」の続きです。(目次はこちら

6.4.2.クローズド・モデル解法

 クローズド待ち行列ネットワーク(端末かバッチのクラスを持つネットワーク)を評価するために我々が用いるテクニックは、平均値解析(MVA: mean value analysis)として知られている。それは3つの式に基づいている。

  • リトルの法則を待ち行列ネットワーク全体に適用する
    • X(N)=\frac{N}{Z+\Bigsum_{k=1}^KR_k(N)}  (6.1)
    • ただしX(N)はネットワーク内に客がN個いた時のシステム・スループットであり、R_k(N)はセンターkでの滞在時間である。(いつものように、もし客クラスがバッチ・タイプであるならば、Z=0と置く。) もしデバイス滞在時間R_k(N)が既知であれば入力パラメータ・データからシステム・スループットが計算出来ることに注意しよう。
  • リトルの法則を個々のサービスセンターに適用する
    • Q_k(N)=X(N)R_k(N) (6.2)
    • やはり、待ち行列長を計算するためにリトルの法則を適用する前に滞在時間は既知でなければならない。
  • サービスセンターの滞在時間の式
    • R_k(N)=
      • ディレイ・センターの場合
        • D_k
      • キューイング・センターの場合
        • D_k[1+A_k(N)]
    • ただしA_k(N)はセンターkに新しい客が到着した時にそこで見られる客の数の平均である。

 オープン・ネットワークの場合と同じように、クローズド・ネットワークの性能尺度を計算するためのキーはA_k(N)の一組である。仮にこれらが既知であったならば、R_k(N)が計算出来、そしてX(N)が、そしてQ_k(N)が計算出来たであろう。オープン・ネットワークの場合、到着時点待ち行列長、A_k(N)を、時間平均待ち行列長、Q_k(N)で置き換えることが出来た。クローズド・ネットワークの場合、この置き換えは可能ではない。クローズド・ネットワークではA_k(N)Q_k(N)と等しくないことを見るために、2つのキューイング・サービスセンターと、各センターで1秒の処理要求時間を持つ1個の客からなるネットワークを考察しよう。客は1個だけなので、サービスセンターでの時間平均待ち行列長は単にその稼動率なので、Q_1(1)=Q_2(1)=1/2。しかし、到着時待ち行列A_1(1)A_2(1)は両方ともゼロである。というのはネットワーク内に1個の客がいるだけなので、客が到着する前にキュー内に客がいることは出来ないからである。一般に、主要な違いは、到着時待ち行列長はある客がセンターに到着しつつある(よってそれ自身はそこではキュー内にいるはずはない)という事実に条件付けられて計算されるが、時間平均待ち行列長はランダムに選んだ瞬間(よって全ての客がそのキュー内にいる可能性がある)に渡って計算されるということである。
 上述したように、モデルを評価することは、まずA_k(N)を計算することを要求する。2つの基本的な解法、すなわち、厳密な解法と近似解法、が存在する。この区別が、解がコンピュータ・システム自身によりもむしろモデルにどう関係しているかを指していることを強調したい。コンピュータ・システムの性能に関する解の精度は主にモデルのパラメータ値決定の精度に依存するのであり、2つの解法のどちらが選ばれたかに依存するのではない。
 次に、2つの解法の各々を検討する。まず厳密な解法から始める。

6.4.2.1.厳密な解法」に続きます。