6.5. 理論的基礎:Quantitative System Performance

6.4.2.2.近似の解法」の続きです。(目次はこちら

6.5. 理論的基礎

 分離可能待ち行列ネットワーク・モデルは、サービスセンターと客の振舞について制約を課すことによって得られた、待ち行列ネットワーク・モデルの一般クラスの部分集合である。「分離可能」という名前は、個々のサービスセンターがネットワークの残りから分離出来、その解が分離した状態で評価出来るという事実から来ている。次に、ネットワーク全体の解はこれらの個別の解を組み合わせることによって構成出来る。直感的には、分離可能ネットワークは、個々のサービスセンターが他のサービスセンターと(大体)独立して動作するという性質を持つ。
 もし満足するならばそのモデルが分離可能であることを保証する、モデルの動作に関する5つの仮定がある。それらは、

  • サービスセンター・フロー・バランス:サービスセンター・フロー・バランスはフロー・バランスの仮定(第3章参照)の個々のサービスセンターへの拡張である。すなわち、各々のセンターでの到着数はそこでの完了数に等しい。
  • 1ステップ動作:1ステップ動作は、厳密に同時にシステム内の2つのジョブが「状態を変化させる」(つまり、あるデバイスで処理を終了する、あるいは、システムに到着する)ことはないことを主張する。現実のシステムはほとんど確かに1ステップ動作を示している。


残りの3つの仮定は均一性の仮定と呼ばれている。この名前は各々の場合に仮定が、ネットワーク内のいくつかのあるいは全ての客の現在位置に係わらずある数量が同じ(つまり、均一)であることであるという事実に由来する。

  • ルーティング均一性:この時点まで我々はモデル内の客の振舞を単純にその処理要求時間で特徴づけていた。より詳細な特徴づけはジョブのルーティング・パターンを、つまり、訪問したセンターのパターンを含むことだろう。このより詳細な見方が与えられたとすると、センターjで処理を今完了したジョブが直接センターkに進む回数の割合が、すべてのjkについて任意のセンターでの現在の待ち行列長と独立である場合、ルーティング均一性が満足されている。(分離可能モデルの驚くべき側面は、ジョブのルーティング・パターンがモデルの性能尺度と無関係であるということである。よって、我々はそれらを無視し続けることになる。)
  • バイス均一性:サービスセンターからのジョブの完了のレートはそのセンターでのジョブ数によって変化するかもしれないが、他のものはネットワーク内部の客の数と配置に依存しないだろう。
  • 均一外部到着:ネットワーク外部からの到着が発生した時刻はネットワーク内部の客の数や配置に依存しない。


 これらの仮定はネットワークが分離可能であるために、よって効率よく評価されるのに充分である。しかし我々がここまで提示してきた特別の解アルゴリズムはさらにもうひとつの仮定を必要とする。それはデバイス均一性仮定よりも強い形式である。

  • 処理時間均一性:サービスセンターからのジョブの完了のレートは、センターがビジーの場合、ネットワーク内部の客の数や配置と独立であるのに加えて、そのセンターでの客の数にも独立でなければならない。


2つの仮定のうち弱いほう、つまりデバイス均一性は、センターからのジョブの完了のレートがそこでの待ち行列長によって変化するのを許している。この性質を持つセンターを負荷依存センターと呼ぶ。ディレイ・センターは負荷依存センターの単純な例である。というのは、完了のレートはセンターでの客の数に比例して増加するからである。処理時間均一性は完了のレートは待ち行列長と独立であることを主張している。この特徴を持つセンターは負荷独立と呼ばれる。我々が今まで記述してきたキューイング・センターは負荷独立センターの例である。この章で提示したMVAアルゴリズムの特定のバージョンはまったく負荷独立センターとディレイ・センターで構成されているネットワークのみに適用可能である。第8章第20章で一般の負荷依存センターに適応するのに必要な修正について検討する。
 上記の仮定はアルゴリズム6.2を用いて得られた解がモデルの厳密解であることを数学的に証明するのに必要であるが、それらは分離可能モデルがよい結果を提供するために厳密に満足させる必要は実際上ない。経験の示すところでは待ち行列ネットワーク・モデルの精度はこれらの仮定の違反に関して極めて頑強である。よって、均一性の仮定を実際に満足する現実のコンピュータ・システムはないが、これらの仮定への違反がモデル化スタディの不正確さの主要源であることはまれである。より普通には、モデルの妥当性確認に際して出会う問題はシステムレベルでのモデルによる不十分な精度の特徴づけによって、通常、処理要求時間あるいは負荷強度の不正確なパラメータ値によって、もたらされる。これに対する少数の重要な例外は、分離可能性のために必要な諸仮定によって課されたモデルの構造における制約が性能にとって重要なコンピュータ・システムの側面の表現を禁止する場合である(例えば、メモリ制約あるいはプライオリティ・スケジューリングのモデル化)。これらの場合、我々は分離可能ネットワークと同じくらい容易に構築出来評価出来るが、コンピュータ・システムの「非分離可能」な面も表現するようなモデルを望む。本書のパートIIIで我々は一緒に(通常、繰り返して)評価された分離可能モデルの集合がまさにそのようなモデルを提供することを示す。よって、分離可能モデルはコンピュータ・システムの適切な単純なモデルであるだけでなく、そこからより詳細なモデルを構築出来る基本的な積み木でもある。

6.6. まとめ」に続きます。