8.4.高レベル・モデルの求解:Quantitative System Performance

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8.4.高レベル・モデルの求解


 高レベル・モデルを評価する最も明らかな方法は前章で開発した解析テクニックを適用することである。第20章で我々は負荷依存サービスセンターを含むネットワークの効率的な評価を可能にするMVA解法の拡張を示す。あいにく、この方法は分離可能待ち行列ネットワーク・モデルにのみ適用可能である。非分離可能高レベル・モデルは、元もとのモデルの(プライオリティ・スケジュールを用いたサービスセンターのような)非分離可能な側面が高レベル・モデルに直接表現される場合や、負荷依存サービスセンターが任意の処理レート関数を持つ場合に発生する。
 差し当たり、解析すべき元もとのネットワークが分離可能であり、よってこれら2つの問題のうちの最初のものは発生しないと仮定しよう。この場合、もし我々が効率的な解析テクニックを用いて高レベル・モデルを評価したいならば、個々のFESCの負荷依存処理レートに若干の制限を要求することになる。特に、個々のFESCの処理レートを、個体数\vec{n}である場合のクラスcの処理レート、\mu_c(\vec{n})、が\frac{g[n_1,...,n_c-1,...,n_C]}{g[n_1,...,n_C]}に等しく、g[0,...,0]=1という初期条件を持つC次元の行列g[0:N\1,0:N_2,...,0:N_C]で記述出来ることが可能でなければならない。この条件をやぶっている2クラス総体のためのもっともらしいスループット・レートの単純な例は以下である。

  • \mu_A(n_A=1,n_B=0)=1/2
  • \mu_B(n_A=0,n_B=1)=1/3
  • \mu_A(n_A=1,n_B=1)=3/10
  • \mu_B(n_A=1,n_B=1)=2/9

最初の2つのレートはg[1,0]=2g[0,1]=3を要求する(g[0,0]が1に等しいことを思い出そう)。残りの2つのレートは、クラスAのレートがg[1,1]が10であることを要求するが、クラスBのレートがg[1,1]が9であることを要求するので、共存できない。
 FECSの処理レートを評価するための一般的テクニックは分離可能な高レベル・モデルをもたらさないが、低レベル・モデルを分離可能ネットワークとして解析すること(セクション8.3の2番目の方法)はそれをもたらすことが保証されている。この事実に基づいて、分離可能ネットワークの階層的モデル化において使用する効率的な戦略がアルゴリズム8.1としてまとめられた。この戦略の主要な動機は計算要求が低いということであるが、もともとのモデルが分離可能な場合、このアルゴリズムは正確な解を生成するということが起こる。
 もともとのモデルが分離可能でない場合、アルゴリズム8.1は若干修正されなければならない。もしモデルの非分離可能側面が低レベル・モデルのうちの1つに含まれているならば、サブモデルを解くアルゴリズムのステップは、MVA解法が適用出来ないので、修正されなければならない。同様に、非分離可能サブモデルから得られるスループットは分離可能FESCをもたらさないので、高レベル・モデルの解を扱うアルゴリズムのステップは修正されなければならない。もし元もとのモデルの非分離可能局面がどの低レベル・モデルにも見られず、高レベル・モデルにのみ見られるならば、このモデルの解を扱うステップのみが変更されなければならない。アルゴリズム8.1を適用する際にMVAの代わりに使用することが出来る非分離可能モデルを解くための方法はセクション8.5で与えられる。その方法は元々のモデルの近似解をもたらす。しかし、経験が示すところによればそのような近似は通常きわめて正確である。

K個のセンターと個体数\vec{N}を持つクローズド分離可能モデルを与え、センター1からAまでを総体とし、センターA+1からKまでを補完体とする。

1.

  • 全てのクラスについてセンターA+1からKまでの処理要求時間をゼロに設定して低レベル・モデルを作成する。これはセンター1からAまでを持つモデルを作成することと等価である。

2.

  • 厳密MVA解法を用いて、個体数\vec{N}を持つこの(分離可能)モデルを評価する。客ゼロの場合からフル個体数\vec{N}までの全ての個体数と全てのクラスcについてシステム・スループットX_c(\vec{n})を得る。

3.

  • センターA+1からKまでと、センター1からAまでを表現する1つのFESCと、客個体数\vec{N}からなる高レベル・モデルを作成する。そのFESCのキュー内の客個体数が\vec{n}である場合のクラスcについてのそのFESCの処理レートはX_c(\vec{n})であるべきである。

4.

  • 第20章に記述されたMVAの拡張を用いてこの高レベル・モデルを評価する。このモデルの解はもともとのKセンター・ネットワークの解の近似である。全ての客クラスについてのシステム性能尺度と、センターA+1からKまでについての性能尺度は、この解の結果として得られる。センター1からAまでについての性能尺度は高レベルと低レベルのモデルの解からの情報を組み合わせることによって計算出来る。例えば、個体数Nの単一クラス・モデル内のセンターKでの平均待ち行列長は、
    • Q_K(N)=\Bigsum_{n=1}^N\left[P[Q_{FESC}=n]\Bigsum_{j=1}^njP[Q_K=j|Q_{FESC}=n]\right]
  • で見積ることが出来る。ただしP[Q_{FESC}=n]は、FESCでの待ち行列長がnである確率(高レベル・モデルから得られた)であり、P[Q_K=j|Q_{FESC}=n]は、総体内にn個の客がある場合にセンターK待ち行列jを持つ確率(低レベル・モデルから得られた)である。

アルゴリズム8.1:分離可能モデルのための階層的分解解法

8.5.階層的モデル化の適用」に続きます。