8.5.1.大域バランス(2):Quantitative System Performance

8.5.1.大域バランス(1)」の続きです。(目次はこちら

 この例は大域バランスを直接適用することが出来るほど小さい。しかし一般には、これは当てはまらない。さらに、優先スケジューリングはシステムの性能に重要な影響を及ぼすので、それをモデルに表現することは必要である。我々はここでCPU以外の全てのセンターをFESCに置き換えて生成したより小さなモデルに大域バランスを適用することによってそれを行う。(優先スケジューリングをモデル化するための他のテクニックは第11章で示される。) その結果生成される2センター・モデル(優先CPUとFESC)は次に大域バランスを用いて評価され、この解をシステムの性能尺度の見積りとして用いることは可能である。過程の全体は以下のように概説される。

  • I/Oサブシステムの分離:I/Oサブシステムだけからなるモデルを作成する(図8.5を参照)。個々のクラスはCPUでゼロの処理要求時間を、個々のディスクで図8.4で示された処理要求時間を持つ。
  • 図8.5 分離I/Oサブシステム・モデル
  • 低レベル・モデルを評価する:今作った低レベル・モデルは完全なネットワークでそれが含む全ての個体数について評価される。このサブモデルは分離可能なので、標準のMVA手法を適用出来る。興味のある性能は個々のクラスについての個体数依存スループットである。
    • これらは客が総体を離れCPUに戻る際のレートを、総体内の個々の客個体数について与え、よってそれらはFESCを形作るのに必要なパラメータである。
  • 高レベル・モデルの作成:高レベル・モデル(図8.6)は元々のCPUサービスセンターと、I/Oサブシステムを表すFESCから成る。CPUでは、個々のクラスは図8.4に示した処理要求時間を持つ。FESCは先の表に示す個体数依存処理レートを持つ(例えば、各々1客がいる場合、クラスAは0.00275でクラスBは0.00217)。FESCは合成キューイングを用いてスケジュールされているので、全ての客クラスは同時に独立に処理中であることを思い出そう。よって、クラスAについて0.00275、クラスBについて0.00217の処理レートというのは、クラスA客は(平均)363.6(=1/0.00275)時間単位でクラスB客は460.8(=1/0.00217)で出発するということを表す。
    • 図8.6 高レベル・モデル
  • 高レベル・モデルの評価:高レベル・モデルは優先スケジュールのCPUサービスセンターを含むので、MVAを用いて解くことが出来ない(MVAは分離可能ネットワークにのみふさわしい)。しかし、高レベル・モデルは小さいので、大域バランス手法によって解くことが出来る。我々は以下を得る。
      • X_A=0.0016X_B=0.0020
      • Q_{A,CPU}=0.396Q_{B,CPU}=0.838
    • 大域バランスの直接の高価な適用によって得られた、図8.4のモデルの厳密解は
      • X_A=0.0016X_B=0.0020
      • Q_{A,CPU}=0.373Q_{B,CPU}=0.790

低レベルと高レベルのモデルの両方が厳密に解かれたにしても階層的方法を用いて得られる性能尺度は近似にすぎないことに注意しよう。これはI/Oサブシステム内の客の位置に関する情報が切り捨てられているので、I/Oサブシステムの振舞がFESCによって厳密には再現出来ないからである。
 この例でFESCを用いる動機は、大域バランスはその結果現れる小さな高レベル・モデルに適用出来るのであって、(より一般的な場合には)元々の大きなモデルにではない、ということである。大域バランス手法を用いることは、モデルの優先キューイングの非分離可能側面のために要求された。以下のセクションでは大域バランス解法のより詳細の記述を与える。この手法は一般論と、上の問題に適用したより特殊な場合の両方で記述される。大域バランス手法は優先スケジューリングを含む状況よりもより多くの状況に適用出来ることを留意すべきである。しかし、全ての場合に、解くべきネットワークは非常に小さくなければならない。

8.5.1.大域バランス(3)」に続きます。