「分解可能仮定」についての考察(2)

分解可能仮定」についての考察(1)」の続きです。

総体のアウトプット・レートがその中の客にのみ依存するという仮定は、総体が補完体との連続するやりとりの間に局所平衡を達成するという仮定を暗示している。局所平衡とは、総体の振舞いがその開始時の条件と独立であることをいう。この状況は、もし総体への到着ののち、総体内のサービスセンター間での客の多くの移動が補完体からの他の到着が起きる前に発生するならば起きる。局所平衡は、総体内のサービスセンターの全てが、補完体内のセンターの処理レートよりもかなり速い処理レートを持つ場合に達成する確率が最も高い。


8.2.フロー等価サービスセンターの作成」より

この箇所もひっかかる場所です。

  • 「局所平衡とは、総体の振舞いがその開始時の条件と独立であることをいう。」

これは定常状態分布のことを言っていると考えれば理解出来ます。ここで言っている「状態」という言葉は、総体内の客の総個数ではなくて、総体内の各ノードでの客の個数の組合せを意味しています。そして重要なのは定常状態分布が初期の状態分布に依存しないということです。別の言い方をすれば、客の個体数を定めたならば定常状態分布は1個だけ存在する、ということです。この場合、総体からの出発のレートは客の個体数のみに依存することになります。このように考えると「分解可能仮定」についての考察(1)で疑問としていた「分解可能仮定」を満たさない場合の例を見つけるヒントになりそうな気がします。つまり「分解可能仮定」を満たさない例は、おそらく上の意味での定常状態分布が複数ある場合なのでしょう。


さらに、この理解の仕方で

  • 「この状況は、もし総体への到着ののち、総体内のサービスセンター間での客の多くの移動が補完体からの他の到着が起きる前に発生するならば起きる。」

も理解出来ます。つまり総体内での遷移の平均時間が短いので補完体からの次の客の到着の前に総体内は定常状態分布になると考えればよいわけです。しかし、ジャクソンネットワークでは

  • 「もし総体への到着ののち、総体内のサービスセンター間での客の多くの移動が補完体からの他の到着が起きる前に発生するならば」

という条件が不要なのではないか、という疑問が私には沸いてきます。というのは、この「分解可能仮定」に関係のあるそうな事柄としてノートンの定理というのがあります。ノートンの定理というのは、

待ち行列ネットワークにおいて,一部のノードからなる部分ネットワークをひとつのノードで置き換えたとき,他の部分の定常分布が変わらないことをいう. 積形式ネットワークでは,各ノードからの退去過程がある意味でポアソン過程となるので,どのように部分ネットワークを選んでもノートンの定理が成り立つように代替えノードを構成できる.本来は,電気回路において,回路の一部分をひとつの素子で置き換えることができることを示す定理である.


ノートンの定理:ORWiki」より

というものですが、

  • 「一部のノードからなる部分ネットワーク」

というのが「総体」

  • 「ひとつのノードで置き換えた」

が「FESC」に対応しているように思えるからです。しかし、ここには先に指摘したような

  • 「もし総体への到着ののち、総体内のサービスセンター間での客の多くの移動が補完体からの他の到着が起きる前に発生するならば」

という条件がありません。このあたりをどう整理したらよいのか、私にはまだ分かりません。さらに私は上記のノートンの定理の内容自体がよく理解出来ていません。疑問を感じているのは

積形式ネットワークでは,各ノードからの退去過程がある意味でポアソン過程となるので,

という箇所で、閉鎖型(=クローズド)のネットワークの場合には退去過程(=出発過程)はポアソン過程にはならないのではないか、と思うのです。

  • 図1

上の図1のネットワークの場合、仮に客が1個しかないのであれば、あるノードから出発が起こったら、その直後には次の出発は起こりづらい(もう一つのノードを瞬時に通過しない限り)ので明らかにポアソン過程ではありません。(これについては「閉鎖型ネットワーク内のステーションからの出発過程(1)」「(2)」「(3)」で検討しました。

ノートンの定理をもう少し調べる必要がありそうです。(後記。「クローズド待ち行列ネットワークにおけるノートンの定理(1)」から検討を始めました。)


アルゴリズム8.1:分離可能モデルのための階層的分解解法」に続きます。