9.6.1.初期IBM仮想メモリ・システムの単純モデル(2):Quantitative System Performance

9.6.1.初期IBM仮想メモリ・システムの単純モデル(1)」の続きです。(目次はこちら

 ひどいメモリ競合の影響を削減する試みにおいて構成の2つの変更が考慮されていた。ページング・ディスクをドラムにアップグレードすることとメモリの追加である。ドラムへのアップグレードは、I/Oサブシステムを表現しているディレイ・センターでの処理要求時間を調整することでモデルに反映出来る。ページング動作によるこの処理要求時間の部分はデータ・アクセスのシーク部分の除去(ドラムは固定のヘッドを持つ)とレイテンシーとデータ転送の部分の減少(ドラムはディスクより高い回転速度を持つ)を考慮して削減されなければならない。これらの調整は割りに簡単に見積ることが出来る。新しい処理要求時間が一旦計算されると、評価は前記のように実行出来る。
 メモリの追加を表現することは、若干より手強い。というのはこの修正が、簡単に評価出来ない仕方でページング動作(と、よってディレイ・センターでの処理要求時間)に影響を与えるからである。メモリの追加は2つの場合についてスタディされた。追加のメモリを使って最大マルチプログラミング・レベルを増加させる一方で、個々のアクティブ・ユーザに割当てたページ・フレームの現在の数を維持する。もう一つは、追加のメモリを使って個々のアクティブ・ユーザに割り付けたページ・フレームの数を増やす一方で、現在の最大マルチプログラミング・レベルを維持する。最初の場合をモデル化するために、追加のメモリはさらに2個のユーザがアクティブになることを可能にする一方で1ユーザあたりの現在のメモリ割当てを維持することが決定された。1ユーザあたりのメモリ割当ては固定なままなので、個々のユーザのページ・フォールト回数はマルチプログラミング・レベルの増加によって影響を受けないことが主張された。よってメモリ追加は3から5へ中核サブシステム・モデル内の客の数を増加させ、以前のように評価することによってモデル化された。
 もう一つの場合、3つのアクティブ・ユーザへのメモリ割当ての増加は、1ユーザあたりのページ・フォールトの数を減らすことが期待出来る。モデル内のディレイ・センターでの処理要求時間はこれを反映するために調整されなければならない。新しい環境下でのページングによる個々のユーザの処理要求時間を見積もるために、既存システムの最大マルチプログラミング・レベルを2に減らした実験が実施された。(既存構成での2個のアクティブ・ユーザの各々にとって使用可能なページ・フレームの数は、提案する構成での3個のアクティブ・ユーザの各々にとって使用可能なページ・フレームの数とだいたい同じであると決定されていた。) I/Oサブシステムの処理要求時間はこの実験の間の測定から計算された。メモリ追加はこの値と客個体数3を用いてモデル化され、以前のように評価された。
 中核サブシステムが連続して最大マルチプログラミング・レベルで稼働していることを評価手法が仮定しているという事実から発生する制限に留意することは重要である。もし応答時間がかなり改善したら、この仮定はもはや有効ではないだろう。これが起こったならばモデルは楽観的な結果をもたらすだろう。パラメータ値の任意の一組について、メモリをめぐって争う客の数の平均値(準備完了客の数の平均値)を計算することによって、この過程の有効性をチェックすることが出来る。もし平均で、少なくともメモリ内に収容出来るだけの多くの準備完了客が存在するならば、モデルの結果は正確であると期待される。準備完了客の数の平均は、リトルの法則を中核サブシステム、プラス、メモリ・キューに適用することによって計算出来る。元々のシステムのモデルについては、

  • N_{ready}=XR=0.395{\times}21.3=8.4

であった。
 前の段落は、提案するシステム改造が使用した特定の評価手法によってなされた仮定を無効にする副作用を持つことがあることを指摘している。改造が、モデル入力を計算するのに使用した測定を無効にする副作用を持つこともあり得る。ここで述べたシステムでは、ユーザの考慮時間は4秒と測定された。この低い値はたぶん部分的にはシステムの貧弱な応答時間のせいであった。1つの要求が処理される間にユーザは次を準備する時間を持てた。仮にシステム改造が応答時間を顕著に改善したならば、このオーバラップが経るために考慮時間はたぶん増加したことだろう。
 モデル化スタディの成功の多くの部分が、解析者が顕著な副作用を予想する能力に依存している。


9.6.2.VAX/VMSのモデル」に続きます。