MitraとMitrani 1990年のかんばん方式に関する研究(2)

MitraとMitrani 1990年のかんばん方式に関する研究(1)」の続きです。

 この生産指示かんばんモデルと同じ条件のもとで、工程jがかんばんの代わりにC_j個のbuffer(加工中を含む)をもつ通常のN工程直列生産ラインを考える。工程jの加工が完了したとき、後工程のbufferに空きがなければ、加工済みの部品は工程(j+1)へ進めず、工程jの機械をブロックする。これをmanufacturing blockingと呼ぶ。

次に同じ条件のもとでかんばんの代わりに工程jの前に容量C_j-1のバッファが用意されている生産ラインを考える、ということです。

この生産ラインに対して、A_m^jD_n^j同様\tilde{A}_n^j\tilde{D}_n^jを定義すれば、(5),(6),(8)式はそのまま成立し(7)式も

  • \tilde{D}_n^j=\max\{\tilde{A}_{n-1}^{j+1},\tilde{A}_n^j\}+S_n^j・・・・・(9)

とmax第1項が変わるだけである。実際、n番目の部品が加工を受けるためには、(n-1)番目の部品が工程(j+1)へ進む必要があり、第1項をえる。したがって、(5)〜(9)式より同じ条件のもとでは、

  • A_n^j{\le}\tilde{A}_n^jD_n^j{\le}\tilde{D}_n^j・・・・・(10)

が成り立つ。

まず「(5).(6),(8)式が成立することを確認していきます。

  • \tilde{D}_n^0=0・・・・・(5)

は、かんばん方式の場合と同じく、工程0での任意の部品nの加工完了時刻はゼロに予め設定されている、ということであり、換言すれば、生産ラインに投入すべき材料の準備はすでに出来ている、ということを表しています。これは元々の仮定であり、今回の生産システムでも同じ仮定を設定するので(5)式が成立することになります。

  • \tilde{A}_n^j=\max\{\tilde{D}_n^{j-1},\tilde{A}_{n-C_j}^{j+1}\}・・・・・(6)

に関しては、工程j待ち行列に部品nが到着するためには、その前の工程である工程j-1で部品nの処理が完了し、かつ、バッファが少なくとも1つ空いていなければなりません。部品はFIFOで流れていくことが前提になっています。そうするとバッファが少なくとも1つ空いているということは、部品n-C_jがそれ以前に次の工程、つまり工程j+1のキューに進んでいなければならない、ということです。この時刻は\tilde{A}_{n-C_j}^{j+1}で表されます。一方、工程j-1で部品nの加工が完了する時刻は\tilde{D}_n^{j-1}になります。よって工程j待ち行列に部品nが到着する時刻\tilde{A}_n^jは、式(6)によって与えられることが分かります。


最後に

  • \tilde{A}_n^{N+1}=\max\{\tilde{D}_n^N,U_n\}・・・・・(8)

については、(6)式において

  • A_{n-C_j}^{j+1}

にあたるものが(8)式では

  • U_n

であると考えれば、成り立つことが分かります。


次に上の引用の

したがって、(5)〜(9)式より同じ条件のもとでは、

  • A_n^j{\le}\tilde{A}_n^jD_n^j{\le}\tilde{D}_n^j・・・・・(10)

が成り立つ。

の部分について検討してみましょう。(7)式と(9)式を比べてみます。

  • D_n^j=\max\{D_{n-1}^j,A_n^j\}+S_n^j・・・・・(7)
  • \tilde{D}_n^j=\max\{\tilde{A}_{n-1}^{j+1},\tilde{A}_n^j\}+S_n^j・・・・・(9)

すると違いは

  • D_{n-1}^j\tilde{A}_{n-1}^{j+1}

の違いだけであることが分かります。つまり、部品n-1の、工程jでの加工完了時刻と、工程j+1での待ち行列到着時刻、の違いです。部品n-1は、工程jで加工完了した後に、工程j+1待ち行列に到着しますから

  • D_{n-1}^j{\le}\tilde{A}_{n-1}^{j+1}

であるはずです。このことから直感的に(10)式が成り立つのは予想できますが、これを証明するのは少し大変そうです。この「JIT生産システム」には証明は載っていません。私の考えた証明を別エントリでご紹介することにして、先に進みます。


すなわち、生産指示かんばんはbufferに比べてより柔軟であり、通常の直列形生産ラインと比較し、需要の待ち時間が短く、生産リードタイムも短くなり、スループット(throughput, 単位時間当たりの平均生産可能数を表す)も向上することが示される。

スループットについてはひとつ注意すべきことがあります。それは、

  • スループットが向上するためには、製品の引き取り需要U_nが生産システムの能力に等しいかそれより大きくなければならない。

ということです。さもないとスループットは生産システムの能力ではなくて製品の引き取り需要によって決まってしまいます。製品の引き取り需要が生産システムの能力に等しいか大きいように設定すると、つまり、

  • A_n^N{\le}U_n\tilde{A}_n^N{\le}\tilde{U}_n

となるようにU_nを設定すると、

  • A_n^{N+1}=D_n^N{\le}\tilde{D}_n^N=\tilde{A}_n^{N+1}

となるので生産リードタイムも短くなり、スループットも向上することが分かります。

さらに、需要がPoisson過程に従って到着し、各加工時間が指数分布に従うとき、この生産指示かんばんモデルはMarkov待ち行列としてモデル化でき、その定常確率は標準的な釣合方程式(balance equation)から原理的に求めることができる。しかしその計算は極めて大規模になるため、各工程毎に分割してfixed-point equationを用いた近似解法を導き、シミュレーションと比較してその精度を検証している[*1]。

釣合方程式(balance equation)と言っているのはおそらく大域平衡方程式のことでしょう。ここから定常状態確率を原理的には求めることが出来るが実際には計算量が大変で出来ない、ということらしいです。そのために「fixed-point equationを用いた近似解法」を用いるらしいのですが「fixed-point equation」とは何でしょう? 不動点方程式と訳すべきなのでしょうか? この詳細を知りたいところです。


MitraとMitraniによるかんばん方式の解析の紹介はここまでです。

*1:Mitra, D., and Mitrani, I., 1991, Analysis of a kanban discipline for cell coordination in production lines. II, Operations Res., 39, 807-823.