MitraとMitrani 1990年のかんばん方式に関する研究(1)

MitraとMitraniによる1990年のかんばん方式に関する研究成果の概要が、大野勝久氏のJIT生産システムオペレーションズ・リサーチ――経営の科学 1998年5月号 所収)の3.定量引き取りかんばん方式に説明されています。

Mitra and Mitrani [*1, *2]は、工程jC_j枚の生産指示かんばんをもつ、図2に示されるN工程からなる生産指示かんばんモデルを考えている。工程jの機械の待ち行列Qには、かんばんのついた工程(j-1)の完成品(部品)が加工を待っており、加工が完了したとき工程(j+1)の生産指示かんばんポストA'にかんばんがなければ、完成品置き場BA'にかんばんが到着するのを待つ。一方、加工が完了したときA'にかんばんがあれば、直ちに工程j+1)の生産指示かんばんとともに待ち行列Q'に入り、工程jの生産指示かんばんは生産指示かんばんポストAに戻る。そして、工程(j-1)の完成品置き場に部品があれば、直ちにその部品とともに待ち行列Qに入る。

      • A:工程jの生産指示かんばんポスト
      • B:工程jの完成品(部品)置き場
      • C:完成品置き場から生産指示ポストへのかんばんの移動
      • D:工程jから工程(j+1)へ運ばれる部品
      • Q:かんばんのついた加工待ち部品の待ち行列
  • 図2 生産指示かんばんモデル

本物のかんばん方式は、生産指示かんばんと引き取りかんばん、という2種類のかんばんを用いて運用するのですが、それでは複雑すぎて数理的な解析が困難なので、生産指示かんばんだけを用いたかんばん方式を考えて、それを解析しているのでしょう。このことについては「JIT生産システム」のあとのほうにこう書かれています。

 前節に述べたように、実際のJIT生産システムの引き取りは、引き取りかんばんを用いて行われる。一方、この生産指示かんばんモデルでは、生産指示かんばんポストにかんばんがある限り引き取られ、待ち行列Qのように実際のJIT生産システムにはない待ち行列がみられるものの、1枚を定量とする生産指示かんばんと同数枚の引き取りかんばんをもつ定量引き取りかんばん方式のモデルと考えることができる。


ところで図2を注意深く読まないと見落としてしまいますが、各工程は1台の装置から成っています。実際の生産ラインでは1工程を複数の装置が担当することは普通にあることですので、このMitraとMitraniの研究は現実に比べれば特殊な、限られた条件内での研究になっています。各工程が1台の装置から成っていることを念頭におかないと以下に登場する数式がなぜ成り立つのか理解出来なくなります。



さて、「JIT生産システム」における記述を追っていきます。

したがって、n=1,2,...,j=1,...,Nに対して

  • S_n^jn番目の部品の工程jにおける加工時間
  • U_nn番目の製品需要の到着時刻
  • A_n^jn番目の部品が工程j待ち行列に入る時刻
  • A_n^{N+1}n番目の製品需要が製品を引き取る時刻
  • D_n^jn番目の部品の工程jにおける加工完了時刻

とおけば・・・・・・

n番目の部品というのはn番目に生産ラインに投入される部品という意味です。それぞれの部品には製品になった際の需要が割りつきます。いつ部品と需要が割り付けられるのかは、記述からはよく分かりませんが、どうも未割付の部品と未割付の製品需要の両方がそろった時に、部品、製品需要の双方とも古いものから順に割り付けるようです。

とおけば、工程1の前に原材料倉庫を仮定しているので

  • D_n^0=0・・・・・(5)

である。

つまり工程0での任意の部品nの加工完了時刻はゼロに予め設定されている、ということです。換言すれば、生産ラインに投入すべき材料の準備はすでに出来ている、ということです。

さらに

  • A_n^j=\max\{D_n^{j-1},A_{n-C_j}^{j+1}\}・・・・・(6)

工程j待ち行列に部品nが到着するためには、その前の工程である工程j-1で部品nの処理が完了し、かつ、生産指示かんばんが来ていなければなりません。部品nに割当てられる生産指示かんばんはその前には部品n-C_jに割当てられているから、それがはずされる時刻は、部品n-C_jが工程j+1待ち行列に入った時刻A_{n-C_j}^{j+1}になります。一方、工程j-1で部品nの加工が完了する時刻はD_n^{j-1}になります。よって工程j待ち行列に部品nが到着する時刻A_n^jは、式(6)によって与えられることが分かります。

  • D_n^j=\max\{D_{n-1}^j,A_n^j\}+S_n^j・・・・・(7)

D_n^jは部品nが工程jでの加工を完了する時刻。もし、工程jでの部品nの加工の開始と部品n-1の加工の終了が連続していたら

  • D_n^j=D_{n-1}^j+S_n^j

連続していなければ

  • D_n^j>D_{n-1}^j+S_n^j

その時は、部品nが工程j待ち行列に入ったらすぐに加工が開始されるので

  • D_n^j=A_n^j+S_n^j

逆に先ほどの工程jでの部品nの加工の開始と部品n-1の加工の終了が連続していた場合は、部品nが工程j待ち行列に入ってからしばらくしてから加工が始まるので

  • D_n^j>A_n^j+S_n^j

よって加工が連続する場合は、

  • D_n^j=D_{n-1}^j+S_n^j
  • D_n^j>A_n^j+S_n^j

そうでない場合は

  • D_n^j>D_{n-1}^j+S_n^j
  • D_n^j=A_n^j+S_n^j

よっていずれの場合も式(7)が成り立ちます。

  • A_n^{N+1}=\max\{D_n^N,U_n\}・・・・・(8)

これは式(6)において

  • A_{n-C_j}^{j+1}

にあたるものが

  • U_n

であると考えれば、成り立つことが分かります。

*1:Mitra, D., and Mitrani, I., 1990, Analysis of a kanban discipline for cell coordination in production lines. I, Management Sci., 36, 1548-1566.

*2:Mitra, D., and Mitrani, I., 1991. Analysis of a kanban discipline for cell coordination in production lines, II. Operations Res., 39, 807-823.