Tayur 1993年のかんばん方式に関する研究
さらにJIT生産システム(オペレーションズ・リサーチ――経営の科学 1998年5月号 所収)を読んでいきますと、Tayur 1993によるかんばん方式の解析の紹介が出ています。
Tayur [*1]は、図2に示される工程からなる生産指示かんばんモデルにおいて、より一般的に各工程が、充分なbufferをとって直列に配置された台の機械からなる生産ラインを考え、記号で表している。
前に紹介したMitraとMitrani 1990の解析が、1工程1台の装置の直列ラインに限定されていたのが、この解析では、1工程に複数台の装置に拡張されています。
そして、(5)〜(8)式と同様な式から、標本過程法(sample path method)により構造的特性として優越性(dominance)と可逆性(recersibility)を導いている。
(5)〜(8)式というのはMitraとMitraniの解析で登場した以下の式です。
- ・・・・・(5)
- ・・・・・(6)
- ・・・・・(7)
- ・・・・・(8)
しかし、ここで標本過程法(sample path method)と言っているのは何でしょうか? 私には分かりません。
工程には常に製品需要が待っているものと仮定し、で番目の製品の完成時刻を表すことにする。各工程のかんばん枚数がのときの製品完成時刻をで表す。、の分布関数を、で表したとき、すべてのでならばはより確率的に小さいと呼ぶ。このとき、の平均がの平均より小さいこと等が導かれる。
この確率的に小さいという概念はおもしろいと思いました。つまり任意のを決めた時に、[tex:T_n
が小さい確率が大きいので、の平均値は小さいことになります。
定理1 [優越性] のとき、任意の[tex:1{\le}j
この証明の過程は分かりません。ちょっと使えるかもしれないので一応、覚えておくことにします。2つの生産ラインで任意の区間を採った時、その区間にある工程のかんばんの数の総数が、必ず一方の生産ラインのほうが他方よりも大きいのであれば、その生産ラインの各部品の完成時刻の平均は他方の生産ラインのそれよりも小さい、ということです。
この定理の系として、
が示されている。さらに上記2)は、へと一般化されている。
1)が定理1から導かれることは直感的には分かります。ここから、かんばん枚数が無限大であれば、つまり通常のプッシュ生産ラインであれば、スループットが最大になる、ということが言えると思います。しかし、これは最初の工程の前に全ての部品が予め準備されている、という前提のもとでです。私が知りたいと思っているのは、ある決まったスループットで部品が到着する時に、かんばん方式とプッシュ方式とCONWIP方式でサイクルタイムを比較した場合に、その大小関係はどうなるか、というものですが、この研究はそれには答えてくれそうになさそうです。
次に2)が定理1から導かれることは、少し考えてみれば分かりそうです。しかし、私は2)の結果は実務上あまり重要とは思えないので、ちょっと確かめる気になれません。私には実務において総かんばん枚数が限られる場面というのが想像出来ないのです。その下に記述されている「上記2)は、へと一般化されている。」の意味も分かりませんし、実務上意味のある結果とも思えません。
このあとにも紹介記事が続きますが、読んでも私には重要性が分からないので、ここで私の検討を終えます。
*1:Tayur, S.R., 1993, Structural properties and a heuristic for kanban-controlled serial lines, Management Sci., 39, 1347-1368.